"会長を救った孤児と十年目のDNA" 第4話
浜田は議そうに首を傾げた。
しかし、何も言わなかった。
呂からがった勇気は、濡れた髪のまま廊にてきた。
浜田がタオルを差しすと、勇気はそれを受け取った。
しかし、礼は言わなかった。
浜田はそれを気にした様子もなく、笑顔を向けた。
「夕の準備ができていますよ」
浜田は勇気を堂へ案内した。
堂は邸宅のでも際広い部だった。
いテーブルの方の端に、健造がすでに座っている。
勇気は案内された子に座った。
テーブルのの箸を座るとほぼ同に、無識にかした。
2本の箸が、完璧に平になるように箸置きのに並べ直される。
健造は黙ってそれを見ていた。
何も言わなかった。
田も壁際からそれを見ていた。
田の胸の奥で、何かがまたさくいた。
浜田が料理を運んできた。
温かい汁のりが部に漂う。
鉢が並び、ご飯が置かれた。
そして最に、きな椀が運ばれてきた。
そばだった。
細くい麺が透き通った汁のにえられている。
刻みねぎと柚子の皮が添えてあった。
浜田が椀を勇気のに置いた瞬だった。
勇気は子を引いて、激しくろにがった。
ゆっくりではなかった。
反射に体がいていた。
しかし、音をてずに素く退した。
勇気の顔がさっきまでとまったく違っていた。
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血の気が引いているわけではなかった。
だが、らかに何かを遮断しようとしている顔だった。
勇気は静かにをいた。
「すみません」
声は震えていなかった。
「それがくにあると、息ができなくなります」
勇気は椀を指さした。
「べたことがあります。にかけました」
声は落ち着いている。
パニックではなかった。
ただ、これは事実だと言っているだけの声だった。
浜田は慌てて椀をげた。
健造は子ので微だにしなかった。
しかし、その両がテーブルので静かに固く握られた。
そばのアレルギー。
幸介にも、まったく同じものがあった。
結婚披宴の会で、誤ってそばをにしてしまった幸介。
見るみるうちに顔を腫らし、救急で運ばれたことがあった。
あのの恐怖を、健造は今でも体の奥に烈に覚えている。
幸介が3歳の、初めてアレルギーが発覚したのも、やはりそばだった。
医師から命に関わることがあると告げられた。
妻が青ざめた顔で泣いていた。
その記憶が今、堂ので数のをび越えて蘇ってきた。
健造は勇気の顔を見た。
勇気はすでに元の位置に子を戻している。
の鉢に線を移していた。
何事もなかったかのような顔だった。
しかし、健造の目にはもうその顔が違って見えていた。
その夜遅く、邸宅が静まり返った頃。
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健造はで廊を歩いていた。
勇気にあてがわれた客のを通りかかっただった。
扉のの隙から、が漏れている。
まだ起きているのかといながら、健造はを止めた。
ノックしようとして、が止まった。
健造はノックの代わりに、扉をわずかにけた。
音をてないように、細く隙を作る。
隙から見えたのは、に座った勇気のろ姿だった。
ベッドにはがらず、に直接座っている。
膝のに、あの古い帳を広げていた。
部の灯のので、帳のページがよく見えた。
細かい文字と図面で埋め尽くされている。
歯の断面図。
ボルトの寸法。
数式の羅列。
子供がいたものではなかった。
の、しかも械に精通したがいをかけてき溜めたものだ。
そして勇気のには、つのものがのに並べられていた。
鉛本。
折りたたまれたさな。
そして、鉛のキャップ。
つが完璧に平に、等隔に並んでいた。
また、あの癖だった。
健造は帳の文字に目を凝らした。
目でも、字の特徴がはっきりと分かった。
にし傾いた縦線。
「7」という数字の横棒に入る、さな羽。
見覚えがあった。
見覚えがあるどころではなかった。
その字を、健造は何千回も見てきた。
決裁類に、技術メモに、誕カードに。
幸介の字だった。
幸介が幼い頃からぬまで、ずっと変わらなかった字の癖だった。
健造は扉からゆっくりとをした。
廊に戻り、扉を元通りに閉める。