"博士になった息子を「返せ」と言われた夜" 第5話
正は、ひよりに「から融資を受けた」と説していた。ひよりも父が援助したことはっていたが、額も契約内容もらされていなかった。
「どうして私には、何も……」
ひよりが兄を見ると、彦は苦い表を浮かべた。
「父さんは、おが正さんの肩の狭いいをしないように黙っていたんだ。夫の会社は夫自が築いたとわせてやりたいと」
「だからといって、今さら俺の会社を自分たちのものだと言うつもりか」
正が声を荒らげた。
渡辺は静に契約をいた。
「事業資1億2000万円のほか、このの建築費として6000万円が太田源郎氏の会社から支払われています。はあなたの名義ですが、建物には貸付を担保するための抵当権が設定されています」
「そんなもの、とっくに消えている」
「いいえ。返済は部にとどまり、残額は1億4300万円です。あなたは毎、債務残確認へ署名しています」
渡辺が並べた面には、正の署名と印鑑があった。最の付は、わずか8かだった。
「これは会計の形式にすぎない」
「形式だとおっしゃるなら、裁判で主張してください。ただし、この契約にはもうつな条項があります」
渡辺が赤い付箋の貼られた頁をいた。
婚姻関係に対するな背信為があり、それによってひよりの活が脅かされた、残債務の代物弁済として建物と会社株式の部をひよりへ移転する。
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そこには、正当な理由なくひよりを居から排除しようとしたも含まれていた。
「父さんは、正さんを疑っていたわけじゃない」
彦が静かに言った。
「ただ、融資の直、おがひよりに『子どもを産めないならていけ』と言ったと聞いた。娘がいつかむ所まで奪われるかもしれないと配して、この文を入れたんだ」
ひよりは父の顔をいした。
、父は正を悪く言ったことがなかった。ひよりが夫婦の問題を相談しても、「お自が決めることだ」としか言わなかった。
たいだとったことさえある。
だが父は、何も言わずに娘が帰れる所を残そうとしていた。
「お義父さんは10もにくなっている。この契約を今さら持ちすなんて卑怯だ」
正の言葉に、彦の目が険しくなった。
「くなったのは使えても、残した契約は無するのか」
「俺が会社をきくしたんだ。最初にのを借りたところで、今の価値を作ったのは俺だ」
「会社をきくしたのは、社員と取引先でしょう」
ひよりは初めて、夫の言葉を遮った。
正が振り向く。
「私は会社が苦しかった頃、夜まで伝票を理しました。を背負って倉庫の庫を数えたこともあります。料は度も受け取っていません。それでも族の会社だとっていたから、苦しいとは言わなかった」
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「庭内の伝いをげさに言うな」
「あなたこそ、で全てを築いたように言わないでください」
ひよりの声は震えていた。しかし、もう目をそらさなかった。
渡辺は別の資料を広げた。
「問題は借入だけではありません。過、御社から佐々子さんの経営する美容サロンへ、毎50万円から150万円が送されています。総額は1億円を超えています」
親戚たちの線が子へ集まった。
「業務委託費よ」
子は声をずらせながら答えた。
「私は正さんの会社の広告や接待に協力していたの」
「契約、広告物、成果報告、いずれもしません。請求はありますが、毎ほぼ同じ文面で、担当者の印鑑も確認できませんでした」
「それは経理の管理が悪いだけでしょう」
「さらに、部の送はサロンではなく、子さん個の座へ入っています。摘には『優斗留学費』『優斗活費』と記されていました」
子の肩がきく揺れた。
正が渡辺をにらむ。
「優斗は俺の息子だ。父親が子どもの活費をして何が悪い」
ひよりは息をのんだ。
「もう、子どもがいるの?」
正は答えなかった。
子が産んだという優斗は歳で、の学へ留学しているという。正は会社の資を使い、学費や居費を負担していた。
「だけではなかったのね」
ひよりの声には、もはやりよりい疲れがにじんでいた。