"博士になった息子を「返せ」と言われた夜" 第3話
正がテーブルを叩いた。
「いつまで被害者ぶるつもりだ。おにも得るものはあっただろう。母親になれたんだから」
「あなたは、があなたの子だとりながら、私に度も話さなかった」
「話したら、素直に育てなかっただろう」
「当然でしょう!」
ひよりが声をげたのは、結婚以来初めてだった。
親戚たちが息をのむ。正自も驚いたように目を見いたが、すぐに険しい表へ戻った。
「誰のおかげで活できたとっている。俺が会社をきくし、このを建て、おを何自由なく暮らさせたんだ」
「私はあなたの会社で、無同然で経理を伝いました。事も育児もでしてきました」
「それが妻の役目だろう」
正はで笑い、鞄から婚届を取りした。
「ちょうどいい会だ。俺は子と再婚する。婚届には署名してもらう」
がひよりのへ滑ってきた。
「それと、週以内にこのをていけ。このは俺が結婚から持っていたものだ。は俺たちと暮らす。おが持っていけるのは、自分のと用品だけだ」
「週?」
「分だろう。、俺ので暮らせたんだ。それ以、何を望む」
ひよりは婚届を見つめた。
料理の匂いが漂う部で、誰も箸をかさなかった。の好物を並べた卓が、突然ひよりのを裁く所になっていた。
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「母さん」
がづいてきた。
ひよりは反射に首を振った。自分が泣けば、この子を困らせてしまう。にとっても、まれを突然らされた苦しい夜なのだ。
「丈夫よ」
そう言おうとしたが、声にならなかった。
から力が抜け、ひよりはへ膝をついた。慌てて伸ばしたが祝い膳の端に触れ、鉢が落ちた。煮物の汁が畳へ広がった。
「ほらね」
子がさく笑った。
「こういうまでげさなの。、もういいでしょう。い育ててもらったことには私からもお礼を言うわ」
子はひよりを見ろした。
「ご苦労さまでした。これからは本当の母親に返してください」
は子のを通り過ぎ、ひよりのそばへしゃがんだ。
畳についたひよりのを取り、肩を支える。の膝についた埃を丁寧に払うと、幼い頃とは逆に、息子が母親をたせた。
「母さん、背筋を伸ばして」
の声は静かだった。
「恥ずかしいことをしたのは、母さんじゃない」
「、今の話を理解しているのか」
正が苛った声をげた。
「ひよりはおの実の母親じゃない。おを産んだのは子だ」
はひよりを子へ座らせてから、ゆっくりと父親へ向き直った。取り乱してはいなかったが、その目にはひよりが見たことのないたさがあった。
「産んだが誰かは理解しました。けれど、それで母さんが母親でなくなる理由が分かりません」
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「血がつながっていないんだぞ」
「血を与えただけで親になれるなら、ずいぶん簡単ですね」
子が顔を張らせた。
「あなた、私を責めるつもり? 私は若かったのよ。仕事を諦めたくなかったし、事があったの」
「、僕の誕を覚えていましたか」
「もちろんよ」
「では、僕が何歳のに肺炎で入院したかっていますか。初めて歩いたのはいつですか。学でいじめられた、僕が母さんにだけ打ちけた所をっていますか」
子は答えられなかった。
「僕がアメリカへく、空港で母さんに何を頼んだかっていますか」
「そんな昔の細かいことまで……」
「母親ならっているという話ではありません。僕に関を持っていたなら、つくらいっているはずだと言っているんです」
が子を見つめる。
「あなたは今、初めて僕のに現れた。それなのに、どうして母親の席へ座れるとうんですか」
「これからっていけばいいでしょう」
「僕が何者にもなっていないには必なかった。でも博士号を取った今なら、これからりたい。そういうことですか」
子の唇が震えた。
正は話を打ち切るようにを振った。
「になるな。いずれ分かる。俺の会社を継げば、おの研究にも資をせる。子の美容事業もを考えている。
おの学歴と語学力があれば、族全員にとって利益になるんだ」
その言葉で、の表から最の迷いが消えた。