"毎日1センチ狭くなる庭" 第10話
「う……あ……」
悔しさと恐怖で声にならない鳴が漏れた。 その、ふと線をじて隣の野寺のを見げた。
2階の戸が、わずかにいていた。 隙から覗いていたのは、野寺老だった。
老の顔には、いつもの狂気はなかった。 ただ、激しい『恐怖』に顔を歪ませ、自分の弟がっていったを、まるで悪魔でも見るかのような目で見つめていたのだ。
そして老は、窓越しに私と目がうと、必の形相で首を横に振った。 掠れた声で、私のには届かない言葉を、何度も唇のきだけで叫んでいた。
——『に・げ・ろ』
老はそう言っていた。 そして、自分のをかざし、指を「8本」てて見せた。 今朝打ち込まれた『1025-8』の杭を指差しているのだ。
老は指を8本てたあと、そのを首元に持っていき、横にスラリと切るジェスチャーをした。
『8本目』で、もう限界だ。 の崩落は、30を待たずに、今すぐにでも起きる——老はそう警告していたのだ。
鳴が落ちた。 ドカン!という激しい音とともに、がの元から、今までにない気な「音」が響きとなって伝わってきた。
ゴゴゴゴゴ……。
庭のが、微かに揺れていた。
ゴゴゴゴ……。
鳴りのような音が元を揺らし、私はでの基礎部分にしがみついた。 壇のレンガは完全に崩れ落ち、8本目の杭『1025-8』をに、がきくすり鉢状に沈み込んでいく。
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壁のサイディングボードに、目できるほどの裂け目(クラック)がツーッとった。
が、鳴をげている。
隣の野寺老が窓越しに見せた「8」の指と、首を切るジェスチャー。 30周期どころか、連のによっての空洞化が急激に加速したのだ。このは、いつ面ごと丸ごと呑み込まれてもおかしくない。
「逃げなきゃ……」
恐怖で全の血が引いていく。だが、玄関へ向かおうとした私のが、ぴたりと止まった。
逃げて、どうする? 私の独代の定期預、解約した1,000万円はすべてこののとして消えたのだ。今逃げせば、私は無文で、欠陥宅のローンだけを背負わされた「狂った元妻」としてに迷うだけだ。
「……ふざけないで」
悔しさとりで、指先がくなるほど拳を握りしめた。 あの男——健太と野寺次郎は、私が怯えて泣き寝入りし、を捨ててていくのをぐすね引いて待っている。
私は濡れた靴を脱ぎ捨てると、直線に2階の健太の斎へ向かった。 次郎が言っていた「特約事項の控え」。健太が隠している真実が、ここにあるはずだった。
デスクの最段。ダイヤル式のさな庫が置かれている。 番号は、健太の誕でも、私の誕でもない。私は迷わず、このを契約した付「1024」——あの杭にかれていた気な数字をダイヤルに入力した。
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カチリ。
属音が響き、あっさりと扉がいた。 庫のには、類とかれたいバインダーが入っていた。
私は震えるでページをめくった。 産売買契約の最のページに、ホッチキスで止められたの覚(覚えき)があった。
『特約事項:本物件は盤にな瑕疵(規模沈の恐れ)がすることを買主は承諾し、売主(野寺次郎)は損害賠償責任を切負わないものとする』
そして、そのにあったもう枚のを見て、私は息を呑んだ。
『裏:買主(佐藤健太)に対し、本物件購入のキックバックとして現500万円を別途支払うものとする』
「……あは」
乾いた笑いが、私のから漏れた。
健太は、最初からっていたのではない。 このが崩落する危険があることをりながら、私の切な1,000万円を「」として使い、自分は裏で500万円の現(キャッシュバック)をポケットに入れていたのだ。
私が毎朝、杭の侵蝕に怯え、精神をすり減らしている横で、健太は私を「ヒステリー」「ボケ老の被害妄」と嘲笑いながら、私から奪ったで甘い汁を吸っていた。
「許さない……絶対に許さない……!」
ボロボロと溢れていた涙が、瞬で干からびた。 胸ので渦巻いていた恐怖は消えり、代わりに氷のようにたく、絶対な憎悪が充満していく。
逃げるんじゃない。
このが底に落ちるに、健太と次郎、そしてこの狂った計画に関わった奴ら全員を、獄の底へ引きずりろしてやる。