"毎日1センチ狭くなる庭" 第9話
底がない。 この庭のには、軒を丸ごと呑み込むような、底なしの暗が広がっている。
「美咲ちゃん」
背から突然声をかけられ、私は叫びしそうになってね起きた。
振り向くと、のに傘もささずにっていたのは——隣の野寺老ではなく、見らぬ綺麗なスーツを着た男性だった。 50代半ばほどだろうか。野寺老にどこか面が似ているが、その目は老のような絶望ではなく、鋭く酷なを宿していた。
「驚かせてごめんね。私は野寺次郎。隣の兄の親族でね……このの『の持ち主』だよ」
男は笑いを浮かべながら、私が写真を撮っていたスマホと、に消えたの跡を交互に見つめた。
「の持ち主……?」
にまみれたので、私は息を呑んだ。
目のにつ男——野寺次郎は、濡れた黒い級スーツをに纏い、級革靴でがのを踏みつけていた。隣の野寺老とよく似た目元をしているが、その瞳に宿っているのは老のような絶望や狂気ではない。どこまでも酷で、計算い実業の目だった。
「そうだよ。このはね、もともと私の持ち物だったんだ。兄がでむには広すぎるからと、産を通して売りにしたんだが……まさかこんなにく素敵な若夫婦が買ってくれるとはね」
次郎は笑いを浮かべながら、ゆっくりと私にづいてきた。
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その取りには何の躊躇もなく、がの敷をが物顔で歩いている。
「……あなたが売ったのなら、っているはずですよね!?」 私は震える声を振り絞り、元に空いた気な凹みと『1025-8』の杭を指差した。 「この、がおかしいです! を落としたら、そのままの穴に消えていきました! それに隣のおじいさんは毎うちに勝に杭を打ち込んで……! あなた、っていて欠陥宅を私たちに売りつけたんですか!?」
私の叫びにも、次郎の表はぴくりともかなかった。それどころか、彼は呆れたようにさく肩をすくめた。
「欠陥? いやいや、げさだなあ、美咲ちゃん。ただのによる盤の緩みだよ。築数の経ったにはよくあることだ。それに、兄の奇については申し訳ないとっているよ。あいつはね、40の化が潰れてからずっとがおかしくなっているんだ。自分をまだ測量士だとい込んで、毎おもちゃの杭を打っているだけさ」
「おもちゃ……!? あれは鋼鉄の太い杭です! それに昨の夜、うちの夫と会っていましたよね!? あなたたち、何か隠してる!」
次郎の笑みが、スッと消えた。 粒が彼の頬を伝い落ちる。その静かな顔には、先ほどまでの表面の優しさは微も残っていなかった。
「……健太くんから、何か聞いていないのかい?」
「え……?」
「健太くんはね、君と違ってとても賢い男だよ」
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次郎は私のすぐ目のでち止まり、から見ろすようにたい線を注いだ。 「このを相の半額以で買えた理由を、彼が君に教えていないとしたら……それは君を配させないための『優しさ』じゃないのかな?」
私の胸の奥で、嫌な予が膨れがった。
相の半額以。 健太は言っていた。「たまたま掘りし物の物件が見つかった」と。私の独代の定期預、数百万円をすべてさせて買ったこの。
「健太くんはすべて納得したで、契約にサインしたんだよ。『訳あり物件』としてのリスクも、このの特殊性もね。もちろん、君には黙っておくという条件でね」
「嘘……そんなの、嘘よ……!」
「嘘だとうなら、斎の庫でも探してみるといい。彼が隠している特約事項の控えがあるはずだ」 次郎はクスクスと気に笑うと、革靴の先で、私が指差したの凹みを踏みつぶすようにを被せた。
「女子供が余計な首を突っ込むもんじゃないよ。しくので掃除でもしていればいいんだ。……これ以騒ぎてて、このの価値を暴落させたいわけじゃないだろう?」
次郎はそう吐き捨てるように言うと、がの庭を横切り、にめてあった黒い級セダンへと乗り込んでいった。エンジン音が響き、はの煙るへと消えていった。
のが真っになった。
健太は、っていた。 このが異常であることも、に危険な穴がいていることも、すべてったで私を騙し、私のおを使ってこのを買ったのだ。