"毎日1センチ狭くなる庭" 第5話
「健太、お願いだからこれを見てよ! もう25センチも入ってきてるのよ!?」
週末、私はついに激昂して健太を庭へと引きずりした。しかし、健太は呆れたように首を振るだけだった。
「おさ、庭の端っこが数センチ削られたからって、活に何か支障でもあるのか? 物理にが壊されたわけじゃないだろ。あのジジイも庭の端で遊びしてるだけじゃないか」
「遊び!? これだけ頑丈な杭を毎打ち込んでるのよ!? 何か恐ろしい理由があるに決まってるじゃない!」
「理由なんてあるわけないだろ! ボケ老のこだわりだよ!」 健太はイライラとをかきむしった。 「おが毎そうやって騒ぐから、俺はに帰ってくるのが苦痛なんだよ! 隣のジジイより、おのヒステリーの方がよっぽど迷惑だ!」
健太はそう吐き捨てると、に乗ってどこかへかけてしまった。 もう、このに何を言っても無駄だった。私と健太のには、修復能なほどたく巨な亀裂が入っていた。私のおで買ったで、私の恐怖を「ヒステリー」と蹴する夫。このには、私を守ってくれるは誰もいない。
そして、運命の30目がやってきた。
そのの朝も、あの属音が響いた。 カチャ……。カチャ……、ジーッ。
私は震える体で窓からを見た。 老はがのリビングの窓枠から目との先、庭のちょうど30センチ内側の所にっていた。
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に持ったハンマーを振りげ、力任せに振りろす。
ガンッ!
30本目の杭——『1024-30』が、のにく打ち込まれた。
その瞬、老は肩をきくさせ、く荒い息をついた。 その顔はのように蒼で、額からは量のや汗が吹きしていた。全を激しい震えが襲っている。
「……野寺さん」
私が窓をけて呼びかけると、老はゆっくりと顔をげた。 その目には、これまでにない狂気と、そして底れない『絶望』が宿っていた。
「……30だ」 老は掠れた声で呟いた。 「ついに、30まで来てしまった……」
「どういうですか!? 30って何なんですか!?」
老は私を見ようともせず、ただ自分の打ち込んだ30本の杭の列を、恐ろしいものを見るような目で見つめていた。そして、乾いた唇を震わせながら、ポツリと言い残した。
「終わりだ……。、すべてが決まる」
老は脚を引きずりながら、逃げるように自分ののへと消えていった。
、すべてが決まる? 体何が起こるというのか。、老はがのに直接杭を打ち込んでくるのか? それとも、何か恐ろしい事件が起きるのか?
その夜、私は恐怖のあまり言も眠ることができなかった。 健太は「急な張が入った」と言って帰ってこなかった。暗いリビングで、で包丁を握りしめながら、私はひたすら朝が来るのを待った。
計の針が、午5を指した。
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は静まり返っていた。 あの属音は……聞こえない。
私はを決して包丁を握り直し、そっと窓のカーテンをけた。
「……え?」
私のから、ぽろりと包丁が落ちた。
庭には、何もなかった。
昨まで確かにそこにあったはずの、く打ち込まれていた30本の太い鋼鉄の杭。 それらが、跡形もなく、すべて消えっていたのだ。
は綺麗に均され、まるで最初から何も打ち込まれていなかったかのように平らになっていた。 あんなにく突き刺さっていた杭を、夜にして、たったで全部抜き取ることなど能なはずなのに。
呆然とち尽くす私の界に、ゆっくりと隣のの扉がくのが映った。
作業着を着た野寺老が、てきた。 には、あの鋼製メジャーと、黒いハンマー。
老はがの庭と自分の敷の境界線につと、たく湿ったのにつんいになった。 そして、自分の敷からがの庭に向けて、メジャーを1センチだけ伸ばした。
ハンマーを振りげる。
ガンッ!
がの庭の端に、たな杭が打ち込まれた。 そのの部分には、黒いマジックで、こうかれていた。
『1025-1』
老は私を見げ、ニヤリと、たく歪んだ笑みを浮かべた。
毎朝1センチ、30で30センチ。 そして、30目にすべてが消失し、再び「1」から始まる。
私はそのにへたり込み、溢れる恐怖の涙を止めることができなかった。
この狂気のループから、私は度と抜けせないのかもしれない。