"毎日1センチ狭くなる庭" 第2話
町内会で孤したら困るのはおだろ?」
健太はコーヒーをみ干すと、呆れたような目で私を見た。
「専業主婦でにずっといるから、そういう些細なことが気になるんだよ。たかが1センチだろ? 杭なんて見えないように壇のでも被せておけよ。俺は仕事で疲れてるんだ、余計なストレスをかけないでくれ」
私のおもつぎ込んで買ったなのに。私のをしも共しようとしない夫のたい言葉に、私は胸の奥がたくなるのをじた。
結局、そのは健太に言いくるめられ、私は警察に連絡するのを諦めた。 『たかが1センチ』。そうだ、たまたま老の嫌が悪かったか、認症の徘徊のようなものかもしれない。気にしないのが番だ。そう自分に言い聞かせ、私はあえて庭を見ないようにしてを過ごした。
しかし、私のその淡い期待は、翌朝、無残にも打ち砕かれることになる。
翌。午5。 カチャ……。カチャ……、ジーッ。
再び、あの属音が暗い寝に響き渡った。 私は弾かれたように起きがり、窓のを見た。 そこには、昨と同じ作業着姿でいつくばり、メジャーを伸ばす老の姿があった。
老は昨打った『1024-1』の杭をじっと確認すると、そこからさらにがの庭側へメジャーを伸ばし、たな杭を打ち込んだ。
ガンッ!
に『1024-2』とかれたその杭は、昨よりもさらに1センチ、がの庭をく侵蝕していた。
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老は狂っている。だが、その狂気はあまりにも規則で、正確だった。
毎朝1センチ。 これが、私の平穏な常が、音をてて崩れ落ちていくカウントダウンの始まりだったのだ。
健太が会社へ向かった、私はで庭にた。
朝の気が残るのには、昨と今打ち込まれた2本の属杭が、太陽のを反射して鈍くっていた。 『1024-1』そして『1024-2』。
「気にするな」と健太は言ったが、自分のの庭が毎1センチずつに削り取られていくのを、黙って見過ごせるはずがない。私は物置から園芸用のシャベルを持ちし、1本目の杭の根元に突きてた。 テコの原理で引き抜こうと体をかける。しかし——。
「……っ、何これ」
杭はビクともしなかった。ただ面に刺さっているのではなく、まるでの岩盤にでも溶接されているかのように、微かなグラつきすらない。シャベルで周りのを掘り返してみて、私は背筋が寒くなった。 杭は異常にかった。表面にているのはほんの数センチだが、にはなくとも30センチ以、太い鋼鉄の杭が真っ直ぐく突き刺さっている。 ただの嫌がらせで、なぜこんな事のような真似を?
「触るなと言ったはずだ」
からってきたしゃがれ声に、私はビクッと肩を震わせた。 見げると、境界ブロックの向こう側に野寺老がっていた。
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いつのにかそこにいたのか、音すらしなかった。 老の目は血り、異常なまでの執着と焦燥が浮かんでいた。彼はブロック塀を乗り越えんばかりの勢いでを乗りし、私の持っているシャベルを指差した。
「それを抜けば、おたちもぬぞ。いや、この辺り帯が連れだ」
「……脅さないでください!」 私は恐怖を振り払い、シャベルを握り直してちがった。 「これはれっきとした法侵入です。境界線を勝に広げるなんて、犯罪ですよ。今度やったら本当に警察を呼びますから!」
私が精杯のがりで睨み返しても、老の表には「罪悪」や「悪びれる様子」が切なかった。ただ、絶望なまでに話が通じないの、焦点のわない差しがそこにあるだけだった。
「境界線……?」 老は私の言葉を反芻するように呟き、気に喉を鳴らして笑った。 「違う。ワシはを取りっているんじゃない。測っているんだよ」
「何をですか」
「命の猶予だ」
老はそれだけ言うと、にしたハンマーで再び杭のをガンッ!と打した。先ほど私が掘り返してわずかに緩んだ杭が、再びく、ガッチリと固定される。 「狂うなよ……絶対に、狂うな……」 ブツブツと呪文のように呟きながら、老は自分のへと戻っていった。
私はそのにへたり込みそうになるのを必で堪えた。
命の猶予? 測っている? がわからない。