みかん小説
本棚

"毎日1センチ狭くなる庭" 第1話

カチャ……。カチャ……、ジーッ。

5。まだ暗い寝に、属が擦れるような、微かで規則な音が響いていた。

隣で夫の健太(40)はい鼾をかいて寝ている。私はベッドので目を覚まし、じっとを澄ませた。 からだ。庭の方から聞こえる。 引っ越してきて今でちょうど7目。願だったマイホームでのしい活は、この奇妙な音によって静かにひび割れようとしていた。

私はそっとベッドを抜けし、えるを爪先歩きでんで、1階のリビングへと向かった。 私、佐藤美咲(38)は、結婚以来ずっと見ていた「自分たちの」をに入れたばかりだった。都からで1半ほどれた方のベッドタウン。築数はそれなりにいっているが、リフォーム済みの広々とした戸建てだ。 相よりもずっとく、まさに破格の物件だった。健太のわずかな貯だけではりず、私が独代からコツコツ貯めてきた定期預をすべて解約して、ようやくに入れた「終の棲」のはずだった。

カーテンの隙から、の夜けのが差し込んでいる。 音は、庭の境界線あたりから聞こえていた。私は息を殺し、そっと窓のを覗き込んだ。

「……え?」

わず、声が漏れた。 さな庭と、隣の古びた敷を隔てる境界ブロックのそば。そこに、隣に野寺という老いつくばっていたのだ。

広告

齢は80歳を過ぎているだろう。あせたグレーの作業着を着た老は、たく湿ったつんいになり、塗装の剥げた業務用の鋼製メジャーを伸ばしていた。 カチャ、カチャ……。 老は、自分の敷からの庭に向けて、ミリ単位の目盛りをい入るように見つめている。そして、持っていたチョークで壇の縁にい印をつけると、ポケットから属杭と、黒いハンマーを取りした。

ガンッ!

鈍い音が響いた。老は躊躇うことなく、の敷内に杭を打ち込んだのだ。 私は恐怖よりも先に、い戸惑いとりをじた。勝の敷に杭を打つなど、常識では考えられない。

「ちょっと! 何をしてるんですか!」

私は慌てて窓の鍵をけ、たい気のを乗りした。 パジャマ姿の私を振り返った老の顔を見て、私は瞬、息を呑んだ。 髪交じりのボサボサのく刻まれた皺。そして何より、その双眸には切のが宿っておらず、まるで底なし沼のように濁りきっていた。

「ここはうちのです。勝にそんなものを打ち込まないでください!」

私が声を張りげても、老は悪びれる様子すらなかった。ゆっくりとがり、に持ったハンマーをだらりとげたまま、い、掠れた声で言った。

にたくなければ、その線に触るな」

広告

「……は?」

「その杭を抜いたら、おらも終わりだ」

それだけ言うと、老は背を向け、を引きずるようにして自分の古いへと戻っていった。バタン、とい戸が閉まる音が響き、庭には再びな静寂が落ちた。

私は震えるで庭にち、老が打ち込んだ杭を確認した。 それはホームセンターで売っているような物ではなく、建築現で使うような頑丈な測量用の属ピンだった。の部分には、マジックで『1024-1』という謎の番号がかれている。 そして、その杭が打たれた所は、本来の境界線から、の庭に向かって『ぴったり1センチ』内側にい込んでいた。

たかが1センチ。されど、確な法侵入であり、所権の侵害だ。

そのの朝、私はの健太にこの来事を訴えた。 「隣のおじいさん、絶対におかしいよ。勝にうちの庭に杭を打ったの。警察に相談したほうがいいんじゃない?」

しかし、トーストをかじりながらスマホでニュースを見ていた健太は、面倒くさそうにため息をついた。

げさだなぁ、美咲は。ただのボケた老だろ? 自分のと勘違いしてるだけだって」 「でも、『にたくなければ触るな』って言われたのよ? 気が悪いし、あんなの放っておいたら、どんどんエスカレートするかもしれないじゃない!」 「あのな、俺たちはこの町に引っ越してきたばかりの参者なんだぞ? 最初から隣とトラブルを起こしてどうするんだよ。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: