"頬を打たれた契約社員の正体" 第4話
これを見たキラがどんな顔をするか。はそれを楽しみにしているわけではなかった。ただ静かに確かめようとしていた。この会社の歪みがどこまでく広がっているのかを。
帰り、は夜空を見げた。たいが撫でる。昼キラに打たれた方はまだかすかにを持っていた。痛みはどうでもよかった。それより自分が命がけで育てた会社がこんなにも歪んでしまった。そのことの方が老いた胸にはずっとこたえた。
——
翌朝、キラは自分の机に置かれた資料を見て眉をひそめた。
「何よこれ……まさか、本当にやったの?」
半信半疑でページをめくる。粗を探すつもりだった。だがめくるほどにその表から余裕が消えていった。入力は完璧だった。誤字つ、抜けつない。それどころか元の資料にあったミスまで丁寧に正してある。キラのにチリッと嫌な覚がった。こんな仕事をあの老いぼれが? いや、そんなはずはない。認めるわけにはいかなかった。
その、彼女の目が枚ので止まった。がそっと添えておいたあの控えだった。審な取引に誰かが静かに印がつけられた枚。キラの顔からさっと血の毛が引いた。そこに印がついていたのは、まさに彼女と杉専務がいを流し続けてきたあの取引だったからだ。
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「なんでこのジジイがこれに気づくの……?」
瞬にしてキラのは恐怖で真っになった。だが恐怖はすぐに別のものに変わった。追い詰められたものが見せるひどい逆だった。
「ちょっと、あなた——!」
キラはの席へとツカツカと歩み寄った。声はずっていた。
「これ何のつもり? 頼んでないこと勝にして……それにこの印。あなた、何を勝に詮索してるの?」
は静かに顔をげた。
「審な取引がありましたので、のため印をつけただけです。会社のためをって。」
「会社のため……?」
キラの声が裏返った。
「入りの契約社員のおいぼれが、何が会社のためよ! あなたに何が分かるって言うの——!」
フロアが凍りついた。誰もが息をんでその景を見ていた。はそれでもまっすぐにキラを見返した。その静かで揺ぎない目が却ってキラの逆にを注いだ。自分よりもの見すぼらしい老。その老にろめたいところを見透かされている。プライドのいキラにはその屈辱が耐えられなかった。
「その目……その気な目、やめてよ——!」
次の瞬だった。キラのがきく振りげられ、の頬を力任せに打った。パン、と乾いた音が静まり返ったフロアに響き渡った。の体がわずかに傾いた。だが彼は倒れなかった。打たれた方にを当てもせず、ただ静かにっていた。
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その姿あまりにも静かだった。りでも屈辱でもない。ただいしみだけがその目に宿っていた。
「部、やめてください……!」
朝野が鳴のような声をあげ、のに割って入った。「いくらなんでも暴力は! 相はお寄りなんですよ!」
「朝野さん、どきなさい!」
キラはなおも興奮していた。「このジジイが悪いのかよ! 気に私に逆らうから……!」
「逆らってなんかいません! さんはただ仕事をしただけです!」
朝野の目から涙があふれた。それでも彼女はをかばうようにそのにち続けた。はそんな朝野の肩にそっとを置いた。
「お嬢さん、もういい。ありがとう。」
その声は驚くほど穏やかだった。そしてはキラに向かって静かにをげた。
「お騒がせして申し訳ない。私はこれで。」
乱れた資料を黙って拾い集めると、はゆっくりとフロアをていった。打たれた頬を拭うともせず、背筋をまっすぐに伸ばして廊にた。は窓のの空をしばらく見げていた。打たれたことにりはなかった。ただ、こうしてを殴るを部にまで押しげてしまった会社がしかった。そしてその歪みを見逃していた自分の甘さが悔しかった。自分が引いた、自分が退いた、この会社は数字だけを追いかけ、を具のように扱うようになっていた。
若いものの涙を踏みつけて平気でいられる所になり果てていた。
「もう見て見ぬふりはできん。