"爪の綺麗な中卒娘、奇跡を起こす" 第1話
「卒なんですが、働かせていただけませんか?」
その言で、の空気がまるで氷点に落ちたように凍りついた。 械の回転音も、質な属を削る鋭い音も、その瞬だけがすぽりと途切れた。男たちの線が、斉に入へと突き刺さる。県・川区。自部品を作り続けて69、鉄の削りカスと使い古された械油の匂いが板の芯まで染みついたさな。その古びたに、歳そこそこの若い女性が、ぽつんとっていた。
背負っているのは、あちこちが擦り切れてがくなった古びたリュックサック。元には、すっかりあせたスニーカー。彼女がおずおずと両で差しした履歴の学歴欄は、「私第学卒業」という文字でたく止まっていた。
「おいおい……社会見学の所を違えたんじゃないのかよ」
現主任である田所の声には、あきれと、違いなものに対する烈な戸惑いが濁ったように混じっていた。そのざわめく作業員たちので、社の川誠郎だけは、なぜか言も発せずに彼女をじっと見つめていた。誠郎の線は履歴の文字ではなく、その差しされたに向けられていた。無数の細かい傷と、あかぎれで関節が赤く腫れがった。それでも、爪だけは驚くほど丁寧に、まっすぐくえられていた。
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しばらくの苦しい沈黙の、誠郎はかすれかけた声で静かにをいた。
「いいだろう。から来い」
瞬、の空気がピリッと張り詰めた。
「社、いったい何を考えてるんですか!」
田所の声が、隠しきれないりを帯びて響き渡る。倒産寸の崖っぷちにあるさな自部品は、その、誰も予していなかったつのきな決断をした。そして、そこから始まるの果てに、誰も像しなかった奇跡の歯が回りすことになる。
県川区のはずれ、見渡す限りの田んぼと、ぽつりぽつりと建つ宅のに挟まれるようにして、その古びた鉄骨造りのはあった。『川精株式会社』。 その暗い社で、川誠郎は枚のい類を凝然と見つめていた。御歳歳。油のしみが取れないあせた作業着姿で、のをこのと共に歩んできた男だ。川精は、誠郎の祖父が昭に関係のいこので創業し、退職をすべて叩いて古の旋盤を台買ったのがすべての始まりだった。父の代でそれを台に増やし、誠郎の代ではは従業員をまで抱える規模に育てげた。
事務所の壁には、代をじさせる代分の表彰状がずらりと並んでいる。優良請企業賞、品質管理優秀賞。
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額縁の枠はすっかり黄ばみ、ガラス面にはくすんだホコリが積もっていたが、誠郎はこれまで度もそれを壁からしたことがなかった。そこには、祖父と父のプライドがこびりついていたからだ。
しかし、今、その誇りきは歴史な限界を迎えていた。 主顧客である自メーカーの相次ぐ移転。円の波に押されて材料費の仕入れ値は井らずにねがり、請けである彼らに回ってくる部品の発注数は々細る方だった。それなのに、部品単価は容赦なく切りげられ続けた。気がつけば、からの借入は優に千万円を超えていた。
元の類のには、血のような赤いスタンプで徹な数字が押されていた。それは取引メインバンクから突きつけられた、事実の最終通告だった。残された猶予は、あとわずか。 そんな絶望の淵にあった彼らに、唯残されたかすかなは、ちょうど週に届いた通の封筒だった。それは『モーターズ調達部』から送られてきた、次世代型エンジン部品の設計コンペへの招待状だった。もしこのコンペで川精の設計案が採用されれば、億円規模の期契約がい込み、は気に息を吹き返す。しかし、肝の設計チームはすでにアイディアの底をつき、刻なき詰まりを見せていた。
誠郎は毎朝、誰よりもくにを踏み入れる。