"20年後、坊ちゃんは帰ってきた" 第4話
優は勢いよく千鶴子へ抱きついた。
「よかった……僕、だったらどうしようって」
細い背が震えていた。
千鶴子は何度も撫でた。
「私たちで参りましょう。怖がることはありません」
翌。
は本をれた。
の窓からさくなっていくを見ながら、優は声をさずに泣いていた。
千鶴子はそのさなを握った。
約12、はアメリカの空港へりった。
隆からは、現の世話が迎えに来ると聞かされていた。
しかし1待っても、2待っても、誰も現れなかった。
千鶴子は何度も到着ロビーを歩いた。
優の名を掲げる者はいない。
になり、隆から渡されていた封筒を改めていた。
学名。
空欄。
滞先。
空欄。
現担当者。
空欄。
緊急連絡先まで、どこにもかれていなかった。
「そんな……」
千鶴子の指が震え始めた。
優がスカートの裾を掴んだ。
「千鶴子さん、僕たち、どこへくの?」
答えられなかった。
その、千鶴子は鞄の底に入れてきた恵子の記帳をいした。
取りした革表を何気なく指で押した瞬、初めて気づいた。
最の表だけが、自然なほどい。
まるで革と革のに、何かが隠されているようだった。
だが恵子は言った。
――優がになるまで、絶対にけないで。
目のには、く所すら与えられなかった8歳のがいる。
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そしてのには、くなった母が命の最に残した、けてはならない秘密があった。
千鶴子は記帳をく胸へ抱き寄せた。
今は、まだけられない。
ならば、自分の力だけでこの子をかすしかなかった。
空港のへると、見らぬのたいが吹きつけた。
千鶴子は残された僅かな現を数え、本がく暮らす域まで公共交通関を乗り継いだ。タクシーを使えば、それだけで数分の活費がなくなるからだった。
その晩、ようやく見つけた宿へ入ったには、優は歩くことさえ辛そうだった。
「ごめんなさいね、坊ちゃん。今はここでしてください」
「千鶴子さんも緒なら丈夫」
その言葉を聞いて、千鶴子は洗面所でになっただけ泣いた。
翌朝から仕事探しが始まった。
堂、雑貨、清掃会社。
「何でもいたします」とをげて回ったが、英語も分ではなく、子供を連れた国女性を雇うはなかなか見つからなかった。
数、本の裏にあるさな堂で、皿洗いの仕事を得た。
料はくなかった。
それでも、根のある部と毎の事を確保するには分な第歩だった。
が暮らし始めた部は、たったしかなかった。壁には染みがあり、窓枠からたいも入った。
の広い敷で育った優は、最初こそ戸惑った。
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「ここが僕たちの?」
「今だけですよ」
千鶴子はるく笑った。
「いつか坊ちゃんが、自分の力でもっと派なを選べるようになります」
千鶴子は朝から堂で働き、昼の休憩には役所や学へを運んだ。
夜学でにつけた英語を必に使い、優が通える公学を探した。所得庭向けの支援制度もつずつ調べ、必な申請をった。
ようやく学へ通い始めても、優の苦労は終わらなかった。
言葉が分に話せず、古いしか持っていない柄な本のは、すぐにからかわれた。
ある、優は帰宅すると鞄を投げし、部の隅で泣いた。
「もう学へきたくない」
千鶴子は隣へ座った。
「何があったのです?」
「が古いって。親もいないのかって笑われた」
胸が裂けそうだった。
しかし、ただ抱き締めて「」と言うだけでは、この子を守ることにはならない。
千鶴子は優の肩へ両を置いた。
「坊ちゃん。今、あの子たちが笑っているのは坊ちゃんのです。坊ちゃんのではありません」
優が涙の残る顔をげた。
「奥様が坊ちゃんに残した番きな財産は、このです。度読んだものをほとんど忘れない。難しい問題も、よりずっとく理解できる」
「でも……」
「勉なさい」
千鶴子は真っ直ぐに言った。
「今笑っているに、いつか笑われたことさえ忘れさせるほど派になりなさい。
それが番い仕返しです」