"質屋で知った夫の嘘" 第3話
隣でも慎介が眠っていないことが、呼吸の仕方で分かった。夜の2を過ぎた頃、慎介がこちらへ寝返りを打ち、ほとんど声にならない声で呟いた。
「ごめんな」
私は目を閉じたまま、寝たふりをした。
「俺がそばにいたら、おまで壊れる」
布団のから、慎介の指先が私の肩へ触れた。触れてすぐにれたが、私はその瞬から朝まで眠れなかった。
何が壊れるのか。誰が壊すのか。
翌朝、台所へけばコーヒーカップが2つ並んでいたので、私は夜の言葉を聞けなかった。問い詰めても「何でもない」と言われる未来が分かっていたからだ。
その1か、慎介は茶ぶ台のに座り、私の顔を見ないまま告げた。
「婚してくれ」
最初は冗談だとった。
慎介はコートも脱がず、茶ぶ台ので両をく組んでいた。膝ので指の関節がくなるほど力を入れているのに、顔だけは自然なくらい静かだった。
「私、何かした?」
「してない」
「じゃあ、どうして?」
「おは何もしてない」
「答えになってないよ」
結婚してから、慎介に声を荒らげたのは初めてだった。に好きなができたのかと聞くと、慎介はしを置き、「そうってくれていい」と答えた。
私はその言い方に腹がった。浮気を認めるわけでも否定するわけでもなく、自分は何も説しないまま、私に勝に嫌ってくれと言っているように聞こえたからだ。
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「ずるいよ」
「そうだな」
慎介は否定もしなかった。
それから2週、私たちは同じにみながら、毎晩同じ話を繰り返した。私は理由を尋ね、慎介は答えない。夕飯だけは相変わらず慎介が作り、自分はリビングに布団を敷いて寝るようになった。
夜、寝で泣けば、い壁の向こうまで声は聞こえていたはずだ。それでも慎介は度も来なかった。
5目の夜、台所のかりで目が覚めた。扉の隙から見ると、慎介が茶ぶ台に向かって何かをいており、いては丸め、またいている。ゴミ箱にはの塊がいくつも転がっていた。
翌朝、私はそれを広げなかった。き損じをに見られるのは慎介がいちばん嫌うことだとっていたからだ。
婚を申している相にまで、私はそんな気を遣っていた。
10目、慎介の元司から話が来た。そこで初めて、慎介がすでに1かに会社を辞めていたことをった。毎朝、仕事へく格好でをていたのに、もう会社にはっていなかったのだ。
帰宅した慎介を玄関で待ち、腕を掴んだ。
「会社、辞めたの?」
「ああ」
「毎朝どこへってたの?」
「いろいろだ」
「答えて」
慎介は私のを振り払わなかった。ただ私の方を見ないまま、疲れ切った声で名を呼んだ。
「あや。頼むから、聞かないでくれ」
その声を聞いた瞬、私はをしてしまった。
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その夜、の指輪をした。洗面所の棚に置いておけば、慎介が気づいて何か言うかもしれないとったのだ。翌朝見ると、指輪は棚のから、落ちないようにコップのろへ移されていた。
慎介は気づいていた。
けれど何も言わなかった。
2週目、私は婚届に判を押した。ここまでしたら、さすがに慎介も本当のことを話すだろうという、最の賭けだった。
慎介は判を押されたをい見ていた。私は、その指先がの端を何度もなぞるのを見ながら、今ここで「待ってくれ」と言われれば全部なかったことにしようとっていた。
「ありがとう」
慎介がようやくにしたのは、その言だった。
実際に婚届をしたのは3か、310だった。それまで私たちは、ゴミのと気代くらいしか話さないのような暮らしを続けた。それでも慎介は毎朝コーヒーを淹れ、カップを2つ並べた。
婚当、荷物をまとめた私は玄関で靴を履いていた。段ボール7箱と布団袋1つで、4の結婚活はほとんど片付いてしまった。
背から慎介が名を呼んだ。
「あや」
振り返ると、慎介がを差ししていた。のひらには、私が12にした結婚指輪が乗っている。
「いらない」
「持っていけ」
「いらないって言ってるでしょ」
そのとき、慎介は私の首を掴んだ。4で、慎介が私に力を使ったのはそれが最初で最だった。
私ののひらをき、指輪を押し込む。