"質屋で知った夫の嘘" 第1話
「奥様、お待ちしておりました」
その言葉のが、私にはすぐに理解できなかった。
2の午、野町の商のいちばん奥にある古い質で、私はいコートのポケットに両を入れたままっていた。のカウンターのには、さっきまで私のにあった細いプラチナの指輪が置かれている。も飾りもない、ごく普通の結婚指輪で、さを量った主から提示された買い取り額は1万5000円ほどだった。
それでも、財布に412円しか残っていなかった私にとってはだった。2分の賃はまだ払えておらず、蔵庫には卵が1つと萎びたねぎしかない。それまで何度ものまで来て引き返していた私も、このだけは「それでお願いします」と答え、分証をそうとした。
ところが、髪の主――戸田さんは、類にを伸ばす途できを止めた。指輪をもう度に取り、老鏡のからルーペを当て、内側をしずつ回しながら確かめている。やがてルーペを持つ指先が震え始め、私は最初、齢のせいだとった。
しかし、戸田さんは度指輪をい布のへ戻すと、く息を吸い込んだ。それから老鏡をし、私の顔をまっすぐ見た。
「失礼ですが、お名を伺ってもよろしいでしょうか」
「森野です。森野彩」
戸田さんは、私の名をさく繰り返した。
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次の瞬、子からちがってカウンターのへ回り、私の正面で々とをげた。
「奥様。お待ちしておりました」
「奥様って……私、もう婚しているんです」
そこまで言って、私は黙った。戸田さんがゆっくり顔をげたとき、目の縁が赤くなっていたからだ。
「それでも、あの方は最まで、あなたのことを奥様とお呼びになっていました」
の奥から、線とも古い材ともつかない匂いが流れてきた。壁の柱計がさく音を刻み、ガラス戸のではのがアーケードを鳴らしている。私はカウンターのにある指輪から目をせなかった。
「あの方って……誰のことですか」
戸田さんはしだけを置いた。
「相馬慎介様です」
臓が度、きくねた。
慎介は、3に婚した元夫だった。
私が27歳、慎介が29歳のときに結婚した。りったのは、私が勤めていた箱メーカーに、取引先の営業として慎介がやって来たのがきっかけだった。初対面の、慎介は会議のに資料を落とし、拾おうとした私と同にしゃがんでをぶつけた。
「すみません」
「いえ、こちらこそ」
「本当に、すみません」
営業なのに、同じことを2度言ったあと黙ってしまうようなだった。がいいわけでも、話がうまいわけでもなく、当の私は「この、営業には向いていないだろうな」
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とったのを覚えている。
けれど次の打ちわせで、慎介は回の雑談の内容を覚えていた。私が「箱の底を圧着する作業にがかかる」と何気なく話したことを聞き、自分の会社とは関係のない作業補助器具の資料をわざわざ探して持ってきたのだ。
「これ、相馬さんの仕事じゃないですよね」
「はい」
「じゃあ、どうして?」
慎介はし考えてから、当たりのように言った。
「困ってるって言ってたので」
そういうだった。
派なことは切しなかったが、が何気なくにしたことを忘れない。付きい始めて1、私たちは結婚することになり、指輪を探しにった。
慎介が選んだのは、きな宝ではなく、を何度も乗り継いだ先にあるさなだった。配の職が1でやっているで、ガラスケースも2段しかない。私が値札を見て「これなら2分でも丈夫だね」と言うと、慎介はし満そうな顔をした。
「値段で選ぶのでも……いや、違う。そういうじゃない」
慎介は言葉を度してから、よく言い直した。
「いちばん細くて、いちばん丈夫だから、これがいい」
職は笑いながら慎介に同した。太い指輪は見栄えがするが、毎つけ続けるなら、細くて丈夫なものの方が活の邪魔にならないという。私たちは内側に互いのイニシャルを刻んでもらい、受け取りは2週になった。
帰りので、慎介は窓のを向いたまま言った。
「これは、俺がでいちばん事なに渡す指輪だから」