"亡き義母の口座を洗う女" 第6話
袋をしたで、黒いバインダーを取りす。表をくと、そこには縦きの厳格な契約が綴じられていた。
タイトルは——『名義および体特徴譲渡承諾』。
契約は、今から5。義母の認症が本格化し、デイサービスに通い始めた期だ。
ページをめくると、恐ろしい文言が並んでいた。
『甲(坂本雅志)は、乙(株式会社再)に対し、被介護者である坂本子(以、対象者)の以の権利およびデータを無償にて永続に譲渡・提供することに同する』
1.対象者の基本個報(氏名、、マイナンバー、座報) 2.対象者の体特徴データ(歩軌跡、発声パターン、特の作習慣) 3.対象者の所持品(類、貴属、活雑貨)の提供 4.対象者のにおける、戸籍・融関への通の延期および名義運用の委任
血の気が引いていくのが分かった。
5。私がで義母の徘徊や暴言に耐え、泣きながらデイサービスの送りしをしていたあの期。雅志は私のらないところで、義母の「そのもの」を企業に売り払っていたのだ。
契約の最、甲の欄には、雅志の几帳面な跡で『坂本雅志』とサインがされていた。
そして乙の欄には、『株式会社再 代表取締役 黒泰造』の赤い角印。
さらに、その横にある『対象者承諾欄』。
そこには、認症でが震えていたはずの義母の、歪んだ自のサインと、押し潰されたような朱肉の指印があった。
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「そんな……お義母さんまで……?」
いや、違う。
5の義母は、すでに自分の名すらまともにけない状態だった。雅志が義母のを無理やり握りしめ、に押し付けたに違いない。
契約の付録ページをくと、さらに緻密な『運用マニュアル』が添付されていた。
『※対象者の、名義座は「資洗浄(ミキシング)」のバイパスとして運用される』 『※毎週曜の定例引は、AIによる座フラグ維持のための必須フローとする』 『※現キャストには、提供された体データに基づき、首擦り作、脚牽引歩の完全模倣を義務付ける』
が狂いそうだった。
AI? フラグ? キャスト?
雅志は、義母のもに届をさず、座を「きている状態」に保つことで、裏組織のマネーロンダリングの伝いをしていたのだ。
毎振り込まれる18,420円は、座が犯罪に使われていることに対する「名義レンタル料(マージン)」。
そして、あの便利に現れた女は、義母の歩き方や癖を仕込まれた、ただの「名義維持用のロボット(キャスト)」だったのだ。
「……全部、のためだったの?」
庫の底を見ると、もう枚のが入っていた。雅志名義の消費者融からの借入細。総額、百万円。
雅志は株式投資の失敗で作った借を隠すため、実の母親の「」と「」を売りばし、私に介護の苦労を押し付けながら、裏で者のを吸いげていたのだ。
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そのだった。
カチャリ、と1階の玄関ドアがく音がに響いた。
「ただいまー。おい由里、今会社がく終わったから……」
雅志の声だ。
私は息を呑み、固まった。には、雅志の恐ろしい犯罪の証拠である契約が握られたままだった。
第章:声のデータベース
「……由里? どこにいるんだ?」
階から雅志の靴を脱ぐ音が聞こえる。臓が鐘のように打ち鳴らされた。
私は咄嗟に『名義および体特徴譲渡承諾』と借入細を自分ののに滑り込ませると、庫の扉を勢いよく閉めた。暗証番号のロックがかかる「ピピッ」という音が、静かなのにさく響く。
「由里ー?」
階段をってくる音。
私は庫を引きしの奥へ押し戻し、何事もなかったかのようにデスクののホコリをハンディモップで払い始めた。
「……なんだ、ここにいたのか」
斎のドアがき、雅志がっていた。スーツの着をに持ち、怪訝そうな顔で私を見ている。その線が、瞬だけデスクの段の引きしに注がれたのを、私は見逃さなかった。
「あ、お帰りなさい。斎のホコリが気になって、掃除していたのよ」
「ふうん……勝に部に入るなと言ったろ。散らかるからいいよ、俺が自分でやる」
雅志は骨に嫌な顔をし、私から掃除具をひったくるように奪った。