"毎週木曜、つながらない番号へ" 第1話
昭34の、楢沢町にはすでに朝晩のえ込みが訪れていた。に囲まれたさな町では、夕方6を過ぎるころには商の通りも減り、駅の堂から漏れる灯りだけがに濡れたをぼんやり照らしていた。庭に話があるはまだなく、用事があれば所のや郵便局の話を借りる者も珍しくなかった。
町の話局では、数の交換が横列に並び、壁いっぱいに並んだ交換台と向きっていた。さなランプが点くたびにコードを差し込み、相の番号を聞き、別の穴へコードをつないで回線を結ぶのが仕事だった。19歳の野美代子も、等学をてこの仕事に就いてから1半になろうとしていた。
「はい、交換です。番号をどうぞ」
同じ言葉を、1に何回もにする。病院への急ぎの話も、商への注文も、くへ嫁いだ娘にかける距話も、美代子たちは声だけを聞いて回線をつないでいた。話の向こうにどんな暮らしがあるのかを像しないことも、交換に必な得のつだと教えられていた。
けれど、美代子にはどうしても気になってしまう話がつあった。
それは毎週曜、午840分になるとかかってきた。
駅の赤話からだった。
最初にその声を聞いたのは、9の初めだった。しかすれた、50歳とわれる女の声で、言葉遣いは丁寧なのに妙に力がなかった。
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女は交換が応答すると、迷うことなく同じ番号をにした。
「番をお願いします」
美代子は番号表を確認し、すぐに眉をひそめた。番は半くに廃止された番号で、現その番号を使っている加入者はいない。以は町れにあった亜繊維楢沢の女子寄宿舎につながっていたが、そのものがに閉鎖されていた。
「申し訳ございません。番は現、使われておりません」
美代子がそう伝えると、女は数秒黙った。その沈黙には、番号を違えたの戸惑いとは違うものがあった。やがて女は、さな声で尋ねた。
「今も、ですか」
「はい。現も使われておりません」
「そうですか。ありがとうございました」
それだけで話は切れた。
美代子も最初はく考えなかった。昔の番号をいた帳でも見ながらかけたのだろうとい、接続できなかった話として処理した。しかし翌週の曜、午840分になると、同じ赤話のランプが再び点いた。
「番をお願いします」
声も同じだった。
美代子が「使われておりません」と答えると、女はまた「今も、ですか」と尋ねた。さらにその翌週も、が激しく駅の通りにほとんどがなかった夜も、女はきっかり午840分に話をかけてきた。
10に入ってからも変わらなかった。
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枯らしのようないが駅舎の根を鳴らした夜にも、交換台の計の針が8の位置を指すころになると、美代子はいつのにか駅の回線ランプを識するようになっていた。そして840分になると、本当にそれが点くのだった。
「番をお願いします」
聞くたびに、美代子の胸にはさな違が積みなっていった。
番号が廃止されたことを、この女はとっくにっている。それなのに、なぜ毎週同じに、つながらないと分かっている話をかけ続けているのだろう。しかも女は度も「いつから使われますか」とも、「しい番号はありませんか」とも尋ねなかった。
ある曜、話を切ったあと、美代子は隣の席にいた先輩の田島志津へ声で尋ねた。志津は32歳で、この話局に勤めて10以になる交換だった。町の話番号なら加入者名をほとんど覚えているほどで、若い交換たちからも頼りにされていた。
「田島さん、番って、亜繊維の寄宿舎でしたよね」
その瞬、志津の指が止まった。
ほんの瞬だったが、美代子は見逃さなかった。
「そうだったとうけど」
志津は交換台から目をさず答えた。
「毎週曜になると、駅から女のがそこへかけてくるんです。使われていないって説しても、ずっと同じに」
美代子が続けようとすると、志津は初めて顔をこちらへ向けた。