みかん小説
本棚

"母のいない写真" 第4話

だが、昭57——あの「つ目の理由」の付を境に、計簿の記述にな変化が現れていた。

それまで毎のように購入されていた「子・飾代」や「子・美容院」という項目が、昭575、完全に途絶えていたのだ。母は自分のための着も買わなくなり、髪も自宅で自分で切るようになっていた。

代わりに増えていたのは、父に見せるための公式な計簿の隙に、シャーペンで極の文字で記された秘密のメモきだった。

「5/15 内職(内職代) 3,200円」 「6/20 針仕事(所の仕) 4,500円」 「7/11 内職(袋詰め) 2,800円」

母は、父から渡されるわずかな活費から自分の活に必な費用を極限まで削り、さらに夜にひそかに受けていた内職の収入を、円単位で記録していたのだ。

は息をのんだ。母は写真のだけで自分を消していたのではなかった。現実の活のでも、自分にかかるコストをゼロにし、着々と「脱」を貯めていたのだ。

さらに類を調べると、恐ろしい事実が次々と浮かびがってきた。

60、母は元の婦会を脱退していた。表面は「体調良」を理由にしていたが、実際には会費の支払いを止めるためだった。

62、母の名義で細々と続けられていた命保険が解約されていた。解約返戻の振込先は、父のらない座に指定されていた。

広告

平成元、母は自分の私物をしずつ処分し始めていた。直が実を見渡してみても、母のや嫁入り具だった着物、趣だった茶具などはつも残っていない。失踪する数から、彼女は自分の持ち物をリサイクルショップや古物商に売り払い、現に変えていたのだ。

母はかけて、自分の「経済」と「物質」を、このから完璧に消していた。

平成2715、母が実際に姿を消した。彼女が持ちったのは、ボストンバッグつ分の最限の着替えと、かけて貯めたわずかな現だけだった。

彼女はこのから何かを「盗みしていった」のではない。自分がこのに持ち込んだものをすべて精算し、残したゴミすらも綺麗に掃除して、文字通り「無」になってったのだ。

「なんてだ……」

は机に拳を叩きつけた。自分たちは、母が精神んでいくプロセスを、も隣で見過ごしていたのだ。ろうともせず、見ようともせずに。

その、茶封筒の束の底から、通のさな封筒が滑り落ちた。

の名はない。消印は「平成4810」——母が失踪してから付だった。 そして宛先は、き父・佐伯文雄の名になっていた。

第5章:父の斎と隠された封筒

指先が微かに震えていた。佐伯直は、黄ばんだぶりの封筒を慎に取った。

広告

の名は記載されていない。裏面には、ただ「N・郵便局」という消印の丸いスタンプが淡く押されているだけだった。付は平成4810。母がこのから消失してから、丸が経過した頃の代物だ。

はハサミを使わず、慎に封筒の端を指で割いた。からてきたのは、折りにされた便箋が枚と、のB5サイズの用面だった。

便箋をく。そこに躍っていたのは、母の跡ではなかった。 質で、几帳面な、どこか弁護士か代わせる第者の無質な文字だった。

『佐伯文雄様。かねてよりお預かりしておりました類の件、ご提示いただいた条件にてが成いたしましたので送付いたします。なお、子氏より「今切の接触、および警察への捜索願等の提わないこと」を改めて押しされております。本状をもって、双方の通事項は完といたします』

は息をのんだ。 もう枚のの用を広げる。そこには、きで「誓約」と題された文章が残されていた。

、私、佐伯子は、佐伯文雄との婚姻活においてじた切の財産分与および慰謝料の請求権を放棄する。 、佐伯文雄は、佐伯子の今の居および活に関して切の追跡、干渉をわない。 、双方、親族および第者に対し、本件の経緯について事実に反する名誉毀損をわない。

の最部には、つの署名と捺印があった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: