"母のいない写真" 第1話
告別式が終わったの実は、まるで急に肺の空気をすべて抜かれたき物のように静まり返っていた。
線の匂いがく残るで、佐伯直(52)は、畳のに座り込んでいた。親族たちは「変だったな」「体の毒を抜きにく帰りなさい」と々に気遣う言葉を残してっていったが、直にとってこのは、もはや自分の故郷という覚すらなかった。
父・文雄が84歳で逝った。病での最の数ヶ、父はろくに言葉を発することもできず、ただ井の点を見つめ続けていた。父のは、直から見れば「頑固で、無で、真面目な方公務員」そのものだった。
直はい腰をげ、押し入れの理を始めた。数には業者を入れてを壊す予定になっている。自分のが更になることに、特別な慨はなかった。ただ、父の遺品のに、自分が関与すべき類や貴品がないかを確認する作業だけが残されていた。
押入れの袋から、黒い布で包まれたたい束がてきた。解いてみると、揃いの古い革表のアルバムだった。
「……まだ取ってあったのか」
直はわず呟いた。 母・子が姿を消したのは、平成2ののことだ。当、直は20歳。学学で京しており、休みに帰省したときには、すでに母の姿はなかった。父はただく「てった。
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男でもできたんだろう」とだけ言い、警察に捜索願をすことすら拒んだ。それ以来、こので母の話題は固く禁じられたタブーとなった。
アルバムをく。冊目。昭55。 そこには、直が記憶している通りの「佐伯」があった。元の神社での、庭でのバーベキュー。央にはまだ若かった父と、柄で控えめな笑みを浮かべる母、そして器用な笑顔の幼い直。母のはいつも直の肩に優しく添えられていた。
だが、冊目、昭58のアルバムをめくった、直はさな違を覚えた。 学の卒業式の。学のので撮った写真。父と直が央にち、母は画面の端、今にもフレームかられそうな位置にっていた。母の表は、どこかカメラのレンズではなく、遥かくを見つめているように見えた。
昭61。直がのの写真。 伊豆への族旅の記録。卓の写真には、刺の盛りわせと、確かに「つの茶碗」と「つの湯み」が並んでいる。しかし、画面に写っているのは、ビールカップを掲げる父と、照れくさそうに笑う直のだけだった。カメラを構えていたのは母だったのかもしれない。だが、そののページを何枚めくっても、母の姿はどこにもなかった。
「おかしい……」
直の指先がたくなった。 母が「消えた」
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のは平成2のはずだ。だが、このアルバムのでは、それよりずっとから、母というはしずつ、確実に輪郭を失っていた。まるで、インクがじわじわと干がっていくように。
そして、平成27のページ。 母がをてく直、最の族旅となった箱根の温泉旅館での写真。
直は息をのんだ。
旅館の庭園を背景に撮られたその写真の側。本来ならそこにっているはずの母の姿が、きれいに切り取られていた。 雑な破り取りではない。ハサミの刃先で、母の体の輪郭に沿って精密に、寸分の狂いもなく「くり抜かれて」いたのだ。 アルバムの台のには、ただ、母の形をしたい「の穴」だけがぽっかりと残されていた。
直は震える指でフィルムを剥がし、その写真を台から取りした。 写真を裏返した瞬、臓がねがった。
褪せた裏面には、見覚えのある母の、繊細だが芯のある跡で、青いインクの文字が残されていた。
『本、私がこのから消えたつ目の理由。』
付は、昭57412。 母が実際に姿を消したより、8もの付だった。
直は膝ののアルバムを見つめたまま、けなくなった。 母は、ある突然奔放なに駆られて男と駆け落ちしたのではなかった。 彼女は12という膨なをかけて、静かに、計画に、このから自分自を消しっていたのだ。
そして、その「理由」は、枚の写真の裏だけに留まらないことに、直はまだ気づいていなかった。