"夫から届いた23年分の請求書" 第10話
価な料理ではなく、隆司が好きな鯖の噌煮と茶碗蒸しだった。
卓へ座ると、彼は鞄から枚のをした。
瞬、の精算案が戻ってきたのかとった。
には、《退職の事・活案》とかれていた。朝は交代、夕は週回ずつ、掃除は所を分担。義母の施設対応は隆司がになり、私は必なだけ同する。個の予定を週末に確認するが、空いているを勝に事へ入れない。
「みたいに、僕が決めた表を渡すつもりはない。たたき台。変えたいところをいてほしい」
私は笑った。
「事を万円で評価する欄は?」
「もう額にはしない。ただ、は記録して、片方へ偏ったら直したい」
隆司は、退職に簿記講座の講師補助をしたいと話した。週回、域の就労支援施設で、企業の経理を教える。収入はわずかだが、会社以の所で経験を使ってみたいという。
「にいて、全部してくれてもいいのに」
私は、の彼と同じ言葉を冗談で返した。
「働いている君よりがあるから、できる分はくする。でも僕のが全部、のものになるわけじゃない」
夫は自分で答えた。
隆司がにいるようになると、最初は互いに落ち着かなかった。私が勤したあと、彼は洗濯を回し、昼を作り、買い物へった。夕方、私が帰ると、何をしたか細かく報告し、褒められるのを待つような顔をした。
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「毎回ありがとうと言ってほしい?」
「君は、言われたかった?」
「最初の頃は。途から、誰も気づかない方が楽だとってた」
私たちは、謝を義務にはしなかった。ただ、担当のことをしてもらったや、相が忙しいに代わったは言葉にするようにした。常のすべてへ礼を言い続けることはできなくても、当然にしないためだった。
ある朝、隆司が噌汁を焦がした。鍋底にをつけたまま、就労支援施設からの話へたためだ。台所には焦げた匂いが広がった。
以の私なら、何も言わず鍋を洗い、しく作り直しただろう。以の隆司なら、事に慣れていないから仕方ないと仕事へ逃げただろう。
彼は自分でを止め、鍋をにつけた。
「朝、パンでいい?」
「いいよ。鍋は帰ってから緒に見よう」
失敗した朝でも、は回った。
悠斗はその、同じ会社の女性と暮らし始めた。結婚するかどうかはまだ決めていない。で活費と事をどう分けるか、最初に話したという。
「母さんたちを見てたから、借みたいになるに決めようとって」
「事をした方が、相へ請求をすの?」
「さないよ。忙しい期が違うから、ごとに変える」
息子が完璧なになったわけではない。帰省すると今も靴を脱ぎっぱなしにし、私が注する。けれど、誰かが片づけるのを自然現象のようには見なくなった。
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私の仕事も順調なばかりではなかった。しい予約システムの導入で若い職員についていけず、入力ミスをしたこともある。代で正職員になったからといって、隠れた才能がし、皆に認められる物語にはならなかった。
それでも私は、自分で失敗し、自分で謝り、翌も職へった。へ帰れば夕を作るもあれば、隆司が作るもある。料は自分の座へ入り、決めた額を計へ移す。
ある料、通帳を見ながら、最初の万千百円をいした。あのは、自分のを持てば自由になれるとった。その夜、夫から分の請求を渡され、自由には値段がついているようにじた。
今は、自由は分のだけで作るものではないと分かる。自分のを決めること、相のも勝に使わないこと。助けを頼むこと、断られても相を悪者にしないこと。庭ので見えなかった仕事を、見えないまま誰かへ戻さないこと。
卓の引きしには、隆司が作ったしい事案が入っている。予定が変わるたび鉛でき直し、もう何度も消しゴムの跡がついた。
固定された契約ではなく、今のにわせて変えるためのだった。
隆司が講師の、私はで夕をべる。私が曜勤務の、彼は友と釣りへく。
どちらかがにいるからといって、もう方のために待つとは限らない。