"果樹園の奥の家" 第3話
『京へ向かっていると言っただろ。無理に決まってる』
私は通話を切り、画面の刻を美代子にも見せた。午1037分。彼女は何も言わず、唇を噛んでいる。
20分も必なかった。
3分、果園のさらに奥で枝が揺れ、健太郎が姿を現した。着を着る余裕もなかったのか、いシャツの袖をまくり、片にはの鍵を握っている。京へ向かっているはずの夫は、ではなく秘密のの裏から歩いてきた。
髪は寝起きのように乱れ、シャツの胸元には、さきほどのから漂ってきた煮物の匂いが残っていた。握っている鍵は配送トラックではなく、の脇にめられたい軽自のものだ。話で流れていたエンジン音も、にいるよう装うための細だったのだろう。
私ので、最まで残っていた言い訳の余が消えた。
「ずいぶんい京ね」
健太郎はち止まり、美代子を鋭く睨んだ。
「どうして栞をに入れた」
妻である私への説ではなく、最初ににしたのは美代子への非難だった。その順番だけで、彼が守りたい活がどちらなのか分かった。
「入れてないわ。勝に来たのよ。それより、このは誰?」
「会社の名義だ。類のことしからない」
類の名義――父が30かけて育てた果園を、健太郎はそう呼んだ。
父の、荒れた畑をて直したいと言った健太郎を信じ、私は代表取締役の席を譲った。
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従業員ので彼をて、経営判断にもを挟まなかった。それは無だったからではない。夫婦なら、権限を預けても裏切られないとっていたからだ。
私は声を荒らげず、携帯の録音ボタンを押した。
「では、類の質問をするわ。このの1200万円と、京のマンション4000万円は、どの座からしたの?」
健太郎の頬が引きつる。美代子は初めて聞いたように夫を見た。
「マンションは6000万円だって言ったでしょう。が4000万円で、残りはあなたが会社の利益から返すって」
「美代子、黙れ」
「私には独だと言った。会社も果園も自分のものだと。なのに、このが本当の奥さんなの?」
責められた健太郎は私の腕をつかもうとしたが、私は歩がり、そのを避けた。面に置いた保温容器が傾き、蓋の隙から温かい汁が砂利へ染みしていく。
の窓辺には、2の子どもの顔が並んでいた。声を荒らげかけた美代子はそれに気づき、子どもたちが見ないようカーテンを引く。その仕だけは母親のものだったが、健太郎は度もを振り返らなかった。彼が守りたいのは族ではなく、自分の嘘だけなのだ。
美代子の線もそこへ落ちた。彼女は何かをいすように眉を寄せ、それから私を見た。
「健太郎さん、会社には6000万円の借があると言っていました。
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資産を持つ女と結婚すれば全部返せる、とも」
「嘘だ。こいつの話を信じるな」
だが、美代子は健太郎ではなく、私へ向けて決定な言葉を放った。
「あなたは、健太郎の借を返すために選ばれたでしょう」
第4話 6000万円のき先
をりるので、私は度も泣かなかった。
泣けば3の結婚が終わる気がしたからではない。健太郎が私を選んだ理由をった瞬、しみより先に確かめるべき数字がへ並んだからだ。
京都の自宅へ戻ると、私は父の遺品を保管した斎に入り、会社用のノートパソコンをいた。健太郎は代表取締役として座を管理していたが、株主である私の閲覧権限までは消せない。父が顧問弁護士の雅臣に預けていた予備の認証キーを使うと、過3分の入履歴が画面に表示された。
最初に、自分の個座からの送を拾った。
300万円、200万円、350万円、450万円。計1300万円。
振り込むたび、健太郎は「これで従業員の料を守れる」「来には必ず返す」と私のを握った。父の保険を崩したも、私は夫婦で果園をて直しているのだとっていた。通帳の数字は同じなのに、今は騙された回数を示す傷のように見えた。
健太郎は肥料代や蔵設備の修理費だと説していた。ところが同じ期、会社座からは「設備払」
「販拓費」という名目で、計4700万円が複数の関連座へ移されている。