"デブでダサいと捨てられた妻" 第5話
――どこを隠したいですか、ではなく、このを着て何をしたいですか。
「孫の結婚式で、写真から逃げたくない」
「仕事帰りに、そのまま友達と事へきたい」
「腕をげたとき、着が見えないが欲しい」
言葉を聞くたび、真由美のノートは数字と矢印で埋まっていった。肩の域、子に座ったときの腹部の余裕、ポケットのさ、洗濯の布の縮みまで記録した。
最に試着へ入った55歳の澄子は、カーテンの内側からさな声で言った。
「細く見えなくてもいいんです。ただ、鏡のの自分に謝らなくて済むが欲しい」
その言葉を聞いた真由美は、ノートの最初のページにいていた「体形を隠す」という文を、太い線で消した。
第6話 鏡を見たくなる
40の記録をもとに、真由美は型をから引き直した。
背の布を数ミリ増やし、肩を回しても脇が引きつらないよう切り替えの位置を変える。腹部には余裕を持たせたが、ただ広げるのではなく、斜めに落ちる布のみで自然な線がるよう調した。袖は首がし見えるさにし、ポケットは子からつときを添えられるさに置いた。
3かのに作り直した試作品は12着になった。
スタジオでは朝からミシンの音が途切れず、夜になると裁断台のに黄い作業灯だけが残った。
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真由美は40分の画を何度も止め、布が引っ張られる位置へ赤い印を付けた。1にった修正が別のには窮屈になることもあり、完成したとった翌に型を捨てたこともあった。
「20の遅れを、3かで取り戻そうとしなくていいのよ」
黒田にそう言われても、真由美はを止めなかった。遅れを取り戻したいのではない。これまで目をそらしてきた自分のを、今度こそのに残したかった。
うまくいかないもかった。座ると裾が持ちがり、別の箇所を直せば今度は背にしわが寄る。試着のには何度も待ち針が落ち、真由美のには細かな傷が増えた。
それでも、以のように夜の鏡を避けることはなくなった。自分で試作品を着て、腕をげ、子に座り、廊を歩いた。直すべきところを見つけるためなら、体の線から目をそらす必はなかった。
最終試着の、澄子は淡い緑のジャケットと紺のワンピースをにつけた。
「腕をげてみてください」
真由美に言われ、澄子は恐る恐る両腕を伸ばした。脇はずりがらず、背にも苦しさはない。子に腰掛けても腹部の布が固まらず、ちがると裾は元の位置へ静かに戻った。
澄子は試着の鏡に目を向けたものの、すぐにはづかなかった。これまでで鏡を見るたび、太った、老けた、似わないと、自分から欠点を探す癖がついていたからだ。
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真由美はろからをえたが、「細く見えますよ」とは言わなかった。
「さんが、お孫さんの結婚式で過ごせるように作りました。抱きげても、座って事をしても、写真を撮っても苦しくないです」
澄子はようやく鏡のへんだ。
肩をき、横を向き、ポケットにを入れてみる。やがて、鏡のの自分へ確かめるように笑った。
「このなら、写真の端に逃げなくて済みそう」
澄子が鏡ので体の向きを変えるたび、真由美にはではなく、そのの表がるくなっていくのが見えた。細くなったわけでも、若返ったわけでもない。ただ、自分から線をそらさなくなった。それこそが、自分が作りたかった変化だった。
そのにいたスタッフから拍が起こった。真由美はをげたが、胸の奥に込みげるものを抑えきれず、目元を指で押さえた。
黒田は完成したジャケットの縫い目と試着記録を確認し、製造担当者へ向き直った。
「この型でめましょう。最初の産は3000着」
びが広がる方で、製造担当者の表は険しかった。さなブランドにとって3000着は、失敗すればて直せない数量だった。
「広告費は、最でも300万円です。のようにテレビCMは打てません」
黒田が現実を告げると、真由美は壁に並んだ40の試着写真を見た。若いモデルを雇い、きれいに修した写真を作るほうが簡単なのかもしれない。