"デブでダサいと捨てられた妻" 第3話
役所の窓で旧姓に戻す欄へ印をつけると、職員が事務な声で確認した。
「川真由美さんに戻られる、ということでよろしいですね」
「はい」
藤崎という2文字が消えても、胸に穴がくような覚はなかった。庁舎をるとたいが頬を撫でたが、真由美はマフラーを巻き直し、自分ので駅まで歩いた。
駅では、代からの友、田美紀が待っていた。真由美が事を打ちけられた数ない相だった。
「お疲れさま。今は、これだけ言わせて。婚おめでとう」
美紀はそう言って温かいコーヒーを渡し、それから1枚の案内状を鞄からした。翌にかれる、母創80周の同同窓会だった。
「1なら、しは笑って参加できるかな」
真由美が苦笑すると、美紀はもう1枚、黒い名刺をねた。
〈黒田デザインスタジオ 代表 黒田千鶴〉
その名を見た途端、真由美の指が止まった。黒田は、真由美が結婚に勤めていたアパレル会社の元司だった。
数、訪ねたスタジオには、壁面に布見本とデザイン画が並んでいた。裁断台に差し込むのも、アイロンのが混じった匂いも、20とほとんど変わらない。忘れたとっていた覚が、胸の奥から度に戻ってきた。
黒田は真由美を通り見つめたあと、分い企画を差しした。
「40代以の女性に向けたブランドをちげるの。
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隠すためのではなく、もう度、自分を好きになるためのを作りたい」
「でも、私は20も現をれています」
「だから頼むのよ。20の覚だけでを作るには、いま鏡を見るのがつらい女性の気持ちは分からない」
同ではなく、企画責任者としての正式な契約だった。報酬も、商品に名を残す権利も記されている。
真由美は契約の最のページをき、震えそうになるでペンを握った。
そこに署名した名は、藤崎ではない。
川真由美。
20ぶりに、自分の名で仕事を始めるための署名だった。
第4話 元夫のプレゼン
契約から3週、黒田のスタジオに広告代理のがやって来た。
「今の提案、あなたも聞いておいて」
黒田に言われ、真由美は会議とい壁1枚で隔てられたサンプルに入った。先方には企画責任者の名をまだ伏せている。調査が終わるまで部に報をさないという、黒田の方針だった。
やがて聞こえてきた男の声に、真由美のが止まった。
「都アドの藤崎です。本は、御社のブランドを全国区へ押しげる戦略をご提案します」
浩だった。
理も同しているらしく、資料を配る声が続いた。スクリーンが切り替わるたび、会議から軽な子音が漏れてくる。
「メインモデルには20代の細の女性を起用します。
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コピーは『あの頃の私を取り戻す』。40代、50代の女性が最も反応するのは、若さを失ったです」
壁に投された資料には、猫背でつ女性ののと、を浴びる若いモデルがに並べられていた。にはきな矢印が引かれ、〈取り戻す〉という文字だけが赤く調されている。真由美は元の布を握った。を着るの女性を、最初から敗者として扱う構図だった。
浩は自信に満ちた調子で説した。齢への焦り、体形への劣等、夫や周囲から女性として見られなくなる恐怖。それらを刺激すれば、い商品でも売れるという。
黒田がい声で尋ねた。
「そのを実際に着る女性の体は、確認しましたか。腕ががるか、子に座ったとき苦しくないか、鏡のでどんな気持ちになるか」
「そこは商品部が考えることです。広告は、まず買わせなければ始まりません」
理も続けた。
「現実の体形をそのまま見せても、憧れにはなりません。し残酷なくらいの比較が、SNSでは番伸びます」
サンプルの机には、真由美が描いた数枚のデザイン画が広がっていた。腰を隠すい着、体の線を拾わないい布、線をそらすために付けたきな襟。浩の言葉を聞くほど、どれも自分自を隠そうとして描いたものに見えてきた。
「藤崎さんは、ターゲットとなる女性を実際にごじなの?」
黒田の質問に、浩は笑った。