"デブでダサいと捨てられた妻" 第2話
鏡の横には、袖がく擦れたエプロンが掛かっている。その布を見た途端、胸の奥に残っていた言葉が静かにえた。
「事会には、誰を連れていくの?」
浩は瞬だけ黙り、鞄から茶封筒を取りした。
「理だよ。野理。34歳で、俺の部だ」
封筒からてきたのは、浩の署名が入った婚届だった。彼は悪びれもせず、机のへを滑らせた。
「あいつは仕事もできるし、なりにも気を使う。おとは違う。20も養ったんだから、もう分だろ」
そして、切れとして50万円を渡すと言った。
真由美のには、額よりも「養った」という言葉が残った。計簿も、義母の入院類も、浩が失くしかけた取引先の領収も、すべて自分が管理してきた。浩が仕事だけを見ていられた20を、彼は自分の力で築いたとっている。
鳴り返したい気持ちがなかったわけではない。けれど、言葉を探すたびに、をした義母を背負って夜救急へったも、浩の転勤にわせて退職届をした朝も、こののでは最初からしていなかったのだと分かった。胸に残ったのはりより、く握っていた綱から突然をしたような空虚さだった。
「分かりました」
真由美は婚届を封筒へ戻した。浩は拍子抜けしたように瞬きをしたが、すぐにで笑った。
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「の夜までにはてくれ。具は置いていけよ。どうせ50万円じゃ、しいものは買えないだろうけどな」
その夜、浩が浴へ入ると、テーブルに伏せて置かれたスマートフォンの画面がった。
〈く緒に暮らしたい。ホテルの領収、奥さんに見つからなかった?〉
送信者は「野理」だった。
真由美は自分のスマートフォンで表示画面を撮した。続いて、浩の着からていたホテルの利用細、預通帳の最終ページ、保険との資料も撮った。計を任されていた真由美には、どこに何が保管されているか分かっていた。
画面を押す指は震えていたが、撮した画像を付順に保し、のため自分のメールにも送った。泣くのはでいい。今夜このをれば、同じ資料を度と確認できないかもしれなかった。
持ちしたのは、類を入れたさなスーツケースと、若い頃のデザイン画が残る1冊のスケッチブックだけだった。
玄関に鍵を置くと、奥の浴から浩のが聞こえてきた。20暮らした部なのに、ドアを閉めた瞬、そこはもうののようにじられた。
翌朝、真由美は友から紹介された弁護士の事務所にいた。
佐伯弁護士は資料を確認すると、通帳の写真を指で示した。
「奥様、50万円で終わる話ではありません。
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財産分与の対象になる預だけでも、なくとも1860万円あります」
第3話 930万円の署名
「名義は夫になっています。それでも、私に権利があるんですか」
真由美が尋ねると、佐伯弁護士はうなずいた。
「婚姻に夫婦の協力で形成した財産なら、名義だけで決まりません。原則として半分ですから、預だけで930万円。これとは別に、分割も求めます」
50万円で追いされるとっていた20に、930万円という数字が置かれた。真由美は得をしたとはわなかった。それは突然与えられる慰めではなく、自分が事や介護を担い、夫の活と仕事を支えてきたに、初めてついた現実なさだった。
佐伯弁護士から通を受け取った浩は、そののうちに話をかけてきた。
「俺のを半分よこせっていうのか。何もしてこなかったくせに」
真由美は窓辺にち、受話から響く声を黙って聞いた。ビジネスホテルの狭い部には、さな机とベッドしかない。それでも、帰宅を気にせずカーテンをけられる朝は、結婚してから初めてだった。
「今の連絡は、すべて佐伯先を通してください」
それだけ告げて話を切った。
ホテルの領収と理からのメッセージが残っていたため、浩にはく争う余裕がなかった。理からもく婚を成させるよう迫られたらしく、10、彼は930万円の財産分与と分割に同した。
入を確認した翌、真由美はで婚届を提した。