"会長、腕時計に盗聴器があります!" 第1話
第1話 腕計から聞こえた異音
「会、その腕計には盗聴器が仕掛けられています。反応しないでください」
折り畳んだメモを受け取った田健は、瞬だけ目を細めた。それでも都ホールディングスを40く率いてきた男は表を崩さず、何事もなかったようにを組み直した。
楽町の架にある森本靴磨は、製の磨き台が2つ並ぶさなだった。の音やのクラクションが絶えず響く、17歳の佐藤蓮は、健の首から漏れる細い子音を聞き分けていた。
械式計の規則正しい音に、定隔で発信を繰り返すい音がなっている。蓮は児童養護施設で暮らしながら、3から主の森本清に靴磨きと革製品の修理を教わってきた。より拾える音域が広く、革の乾きや具の緩みも音で分かる。
健は磨き台の伝票を裏返し、ゆっくりといた。
〈確かなのか〉
〈計本体ではなく、ベルトの留め具から聞こえます。今も発信です〉
健の指が止まった。蓮がの奥へ目を向けると、事を察した森本がさくうなずいた。
「ベルトの緩みを調いたします」
盗聴されている能性を考え、蓮は普段と変わらない声で告げた。健が計をすと、文字盤と裏蓋には触れず、革ベルトと具をつなぐばね棒だけを具でした。
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留め具の内側に、自然なみがあった。い属板をすと、米粒ほどの黒い部品が埋め込まれている。蓮がピンセットで抜き取り、空になったワックス缶へ入れて蓋を閉めると、に刺さっていた音は消えた。
「調できました」
蓮は計を返し、健は何もらない客のように代を払った。黒い部品は森本に預け、2は通りのい通りまで移した。
「あれは本当に盗聴器なのか」
「断定はできません。ただ、型の送信です。械式計のベルトから子音がすることはありません」
「なぜ気づいた」
「聞こえたからです。具を入れるに異常を伝えたことは、森本さんも証言できます」
健は、そこまで記録を考えていたのかと尋ねた。蓮は、勝に価な計を壊したとわれたくないだけだと答えた。
「怖くなかったのか」
「怖かったです。でも、黙っているほうが悔するといました」
架の向こうには、都ホールディングスの本社ビルが見える。健はそこへ目を向け、計のベルトが傷んだため、先週交換されたばかりだとかした。
「交換したを調べれば、誰が触ったか分かるかもしれません」
「へしたのは私ではない。しいベルトを用したと言って、あるが持ってきた」
蓮は次の言葉を待った。健はわずかに迷ってから、い声で言った。
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「私の息子だ」
第2話 会にあった2台目
翌朝、会秘の藤井真理子が森本靴磨を訪れた。送信を部の専関へ渡すためだったが、森本は受領が用されるまでワックス缶を渡さなかった。蓮も缶の状態を撮し、発見刻と取りした順をき残した。
「見たことと聞いたことを混ぜるな。分からないことは、分からないと言え」
森本に送りされた蓮は、真理子とともに丸の内の本社へ向かった。会には健と部の子器鑑定が待っており、黒い部品は音声を拾って送る型送信だと確認された。製造番号は残っているが、受信先の特定には数かかるという。
そこへ入ってきたのが、健の息子で副社の田浩だった。46歳の浩は、父親の計から盗聴器が見つかったと聞いても、驚いた声をしただけで呼吸を乱さなかった。
「警察にはらせたんですか」
「送り先と設置者を調べてからだ」
「賢です。社内に余計な揺を広げないほうがいい」
浩は蓮へ礼を言い、名刺を差しした。しかし「あの靴磨きで働いているとはらなかった」という言葉には、丁寧さで隠した軽蔑が混じっていた。
浩が退したあと、健がを求めた。蓮は息子を疑うようなことは言えないと断ったうえで、事実だけを伝えた。
「驚いた声をしていました。でも、呼吸はずっと定でした」
健は黙ってその言葉を受け止めた。