"財産は長男へ――8年間介護した次男に残されたのは、古びた倉庫一軒だけだった" 第1話
第1話 次男に残された古い倉庫
「自宅と田畑、預、乗用のすべてを、男の武田裕に相続させる」
野弁護士が公正証遺言を読みげると、裕の妻、美咲の元がわずかにがった。父・正がくなってから5。岡の古いには線の煙が残り、親族の線が座の男夫婦へ集まっている。
54歳の裕は松本で産発会社を経営していた。父が最まで暮らしたも、田畑も預も、級も自分へ渡ると分かると、当然の結果だという顔で腕を組んだ。
方、次男の浩司は49歳。父が1で歩けなくなった8、精密加会社を辞め、それ以来、事や入浴を介助し、糖尿病の注射と血圧の記録を続けてきた。妻の苗はパートを増やし、18歳の娘・千恵も祖父の世話を伝っている。
裕が8で父を見ったのは2回だけだった。1回目はの名義を尋ね、2回目は病にも入らず、通帳と実印の保管所だけを聞いて帰った。それでも遺言の表面には、介護に費やしたなどもかれていない。
野弁護士は、次の項目を読みげた。
「岡郊にある旧武田精密の倉庫、その敷及び倉庫内の産切を、次男の武田浩司に相続させる」
親族のにい沈黙が落ち、最初に吹きしたのは父の妹だった。
「あの根の崩れた倉庫? 解体費のほうがいでしょう」
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美咲も笑いながら浩司を見た。
「8も介護したんですもの。お義父さんも、何かつくらい残さないと気の毒だとったのね」
裕は弟へ、赤字になっても文句を言わず受け取れと言った。浩司は反論せず、遺の父を見つめた。父が本当に自分を厄介払いしたかったのなら、なぜ使いのない倉庫を、わざわざ公正証へき残したのだろう。
「もう点あります」
野弁護士が、鞄の横に置かれた古い腕計を示した。
「正さんが使用していた腕計を、項とは別に浩司さんへ相続させる、とあります」
械式計の革ベルトはひび割れ、傷のついた文字盤は420分で止まっていた。裕は計をつまみげたが、価値がないと分かると畳へ落とした。
「遺言にかれたガラクタも、忘れずに持っていけ」
浩司は計を拾い、袖で埃を拭った。裏蓋には、父が30以営んだ町の名――《武田精密》というい刻印がある。
その、美咲が浩司のまで来て、を向きに差しした。
「では、鍵を」
「何の鍵ですか」
「このの鍵に決まっているでしょう」
美咲は遺言を顎で示し、勝ち誇ったように言った。
「今からここは、うちの主のです」
第2話 8が入った封筒
「父さんのまでは、ここに置いてもらえないか」
浩司が頼むと、裕は骨に顔をしかめた。
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「介護はもう終わった。今夜から寝泊まりするな。荷物をまとめたら鍵を置いていけ」
野弁護士は、居してきたを即け渡させるのは穏当ではなく、期限を改めて協議すべきだと注した。それでも浩司は争わなかった。父の遺ので鳴りうことより、苗と千恵を兄夫婦の言葉からざけることを選び、そののうちに具付きの期賃貸へ移ると決めた。
寝で荷物をまとめていると、棚から8分の介護記録が崩れ落ちた。血圧、体温、事量、注射、救急搬送。入院申込や術同の元引受欄には、すべて浩司の名があり、裕の名は1枚にもなかった。
美咲はその束を見つけると、「くなったの投薬表なんてごみでしょう」と袋へ押し込んだ。浩司はへ膝をつき、折れたを1枚ずつ拾った。
「これは私の物です。捨てさせません」
声は静かだったが、美咲はもうをせなかった。浩司は記録をい封筒へ収め、父と千恵が緒に写った写真も持ちした。い介護のを証するものは、財産目録にはなくても確かに残っていた。
だがしい活を始めると、すぐに別の問題が迫った。千恵は県内学の理学療法学科に格していたが、入学と期授業料82万円の期限は32。父の介護で腰を痛めた浩司は正社員の仕事が見つからず、雇いの現へ通い始めていた。
教育ローンは収入の継続性を理由に断られ、古い倉庫もすぐには売れない。