"山奥に捨てられた下半身不随の妻妻は立ち上がる" 第1話
第1話 がった瞬
「ここなら空気もいい。しに当たれば、気分も変わるだろう」
鈴健はそう言って、妻の膝に掛けたブランケットをえた。いたわるような声とは裏腹に、そのは子のブレーキを最までろさず、掛かっているように見える位置で止めていた。
奥摩の林は昼でも暗く、舗装が切れた先には砂利の坂が続いている。方へ数メートルめば、子はの根がした急斜面へ落ちる。
「すぐ戻る。おとなしく待っていろ」
健は返事を待たずに運転席へ乗り込んだ。
半の事故以来、妻はまともに話せず、両脚もかせない。そう信じ切っている男の顔だった。
黒いSUVがゆっくり発する。健はバックミラーで度だけ妻を確認すると、そのまま林をっていった。
佳奈はうつむいたままかなかった。
エンジン音がざかり、蝉の声に完全に消えるまで待つ。さらに30秒数えてから、閉じていた目をいた。
「……った」
かすれた声だったが、言葉ははっきりしていた。
佳奈はブランケットのへを入れ、縫い目の内側に隠した発信を押した。赤いランプが2回点滅する。位置報と救助請が送信された図だった。
その、肌から吹きろしたが子の背を押した。
かちり、と属音がした。
半端に掛けられていたブレーキがれ、輪が数センチへく。
広告
佳奈は両でハンドリムをつかんだが、乾いた砂利のでは止まらない。速度ががり、の掌が焼けるように痛んだ。
方にはきな岩があり、その先は斜面になっている。救助が到着するまで、子ので待つことはできなかった。
佳奈はで脇の若をつかみ、腰のベルトをした。を面へろすと、ズボンのに着けた装具が膝を支える。続いてを置き、震える脚へ力を集めた。
半には、の指本かせなかった。それでも毎朝、夫が来るに積みねた訓練がある。
佳奈は両腕で体を引きげた。
膝が折れそうになり、首に鋭い痛みがる。それでも若からをさず、子の横でった。ほんの数秒だったが、確かに自分の脚で体を支えていた。
無になった子が坂を転がり、岩へ衝突して横倒しになる。
佳奈はむらへ膝をついた。息をえ、胸元の型録音がいていることを確かめる。健がブレーキへ触れ、妻を残してるまでの音声は、すべて保されていた。
8分、林のから複数の音がづいた。
「鈴さん!」
先にいた捜査員が佳奈の姿を見つけ、ろの救急隊へ図する。担架へ移されながら、佳奈は捜査員に尋ねた。
「夫は、どこですか」
「速へ入りました。別班が追っています」
隣にいた伊藤弁護士が続けた。
広告
「丸の内のホテルで玲奈と会う予定です。今すぐ確保することもできます」
佳奈は傷ついた掌を握り、首を横に振った。
「もうしだけ待ってください」
「なぜですか」
「あのは今、私がでぬのを待ちながら、あの女と祝杯を挙げるつもりです」
佳奈は林のを見た。健のはもう見えない。
「2が番幸せだとった瞬に、らせてください。私がきていると」
第2話 にったボルト
6か、佳奈は都内の改修事現を訪れていた。
自ら代表を務める鈴設計が設計監理を担当しており、そのは仮設通の変更箇所を確認する予定だった。現責任者の森から「全点検は完しています」と報告を受け、佳奈は3階の吹き抜け沿いを歩いた。
すりへ軽くを添えた瞬、固定部がれた。
体が傾き、界ので井とが入れ替わる。佳奈はの資材置きへ落し、背をく打った。
識を失う直、れたボルトの断面が見えた。くにさらされた属なら錆びているはずなのに、そこだけが具で削った直のようににっていた。
術を終えて目を覚ました、ベッド脇には健がいた。
「佳奈、分かるか。俺だ」
夫は両で彼女のを包み、医師や護師が入ってくるたびに目元を押さえた。
担当医の説では、胸椎骨折による完全脊髄損傷だった。
両脚に覚も運能もないが、脊髄が完全に断裂したわけではなく、期のリハビリで反応が戻る能性は残っている。