"預けた通帳が消えた日" 第5話
健は目をそらした。
「俺はらないよ」
冒の、あの会話だった。
録音は、その言言を残していた。
静が「定期預もあったはず」と告げると、美はたく言い放った。
「証拠でもあるんですか?」
その夜、静はイヤホンをつけ、録音を聞き返した。
自分の震える声。
美の笑い。
そして、息子の「らない」。
何度聞いても胸が裂けそうになった。
しかし、削除はしなかった。
痛みこそが、逃げてはいけない証拠だった。
数、健夫婦は再び融資の話を持ちした。
「母さん、今度こそ分かってほしい」
「藤沢のを担保にしたいの?」
静が尋ねると、健は頷いた。
「会社のためなんだ」
「本当に、あなたの会社の事業なの?」
健の目が泳いだ。
静は見逃さなかった。
弁護士が調べたところ、健が勤める会社に、そのような事業計画はしなかった。融資申込に記載されていた会社は、美の兄が設したばかりの投資会社だった。
事業内容も曖昧で、実態はほとんどない。
億円を借り、静の産を担保にする。
返済できなければ、失うのは静の財産だけだった。
「ねえ、健」
静は静かな声で尋ねた。
「この融資先は、あなたの会社ではないでしょう?」
健の顔が変わった。
美がすぐに割って入る。
「細かいことはいいんです。最終には健さんの利益になるんですから」
「失敗したら?」
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「成功する提で話しています」
「担保を失うのは私よ」
美は苛ちを隠さなくなった。
「どうせ先のくないが、そんなに財産を持っていて何になるんですか?」
部が静まり返った。
健が声で妻を止めた。
「美、言い過ぎだ」
「あなたがはっきり言わないからでしょう!」
美は静を睨んだ。
「私たちには未来があるんです。お母さんは、息子の未来を助けたいとわないんですか?」
「の命を、残りのさで値踏みするのね」
静の声は議なほど落ち着いていた。
「族なのに」
美が吐き捨てる。
静は胸元の録音に識を向けた。
分だった。
は、自分たちが何を望み、静をどう見ているのか、自ら話した。
そこで静は、最の確認をした。
「もし私がこのとを渡さなかったら、どうするつもり?」
美は答えなかった。
代わりに、健が言った。
「母さんは最、判断力が落ちている。専に診てもらった方がいいかもしれない」
「そして認症だと言われたら?」
「俺が財産を管理する」
静は息子を見つめた。
その顔には、かつて母親の帰りを先で待っていたの面が残っている。
だからこそ、余計にしかった。
「分かったわ」
静は微笑んだ。
は、母親が折れたのだとったらしい。
しかし静の言った「分かった」は、従うというではなかった。
あなたたちが、どこまで落ちたのか分かった。
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そういうだった。
曜の朝、健夫婦は正式な融資類を持ってきた。
実印を押す箇所には、付箋が貼られている。
「母さん、ここに署名してくれ」
健がペンを差しした。
静は受け取らなかった。
「藤沢のを担保にするのね」
「そうだよ。説しただろう?」
「残だけれど、できないわ」
美の目がつりがった。
「またその話ですか?」
「は、もう私のものではないから」
の表が止まった。
「どういうことだよ」
静は自から売買契約の写しを持ってきた。
「先週、売ったの。千百万円で」
健は類を奪うようにに取った。
売主、田静。
買主、元の産会社。
司法士による続きも完している。
「なんで勝に売ったんだ!」
健が鳴った。
「私の産を、私の判断で売ったのよ」
「族に相談するのが普通だろう!」
「族?」
静はゆっくり美へ目を向けた。
「私のおを預かっていないと言ったたちが、族なの?」
美の顔から血の気が引いた。
「それは、お母さんが勘違いして……」
静はテーブルのに録音を置いた。
再ボタンを押す。
『お母さん、私たちにおなんて預けましたっけ?』
美自の声が、リビングに響いた。
続いて、静の問いかけ。
『健。あなたも見ていたでしょう?』
そして息子の返答。
『母さん、俺はらないよ』
健はをいたままけなくなった。
録音は続く。
『どうせ先のくないが、そんなに財産を持っていて何になるんですか?』
静は再を止めた。