"預けた通帳が消えた日" 第2話
健が就職した、信は先で缶ビールをけ、誰に言うでもなく何度も「よかった」と繰り返した。
ところが、その、信はで倒れた。
筋梗塞だった。
静が病院へ着いたには、もう話すこともできなかった。最に握った夫のは、魚を運び続けたらしくかった。
静は、そのの触を今も覚えている。
夫をくしてからも、静は、でを続けた。
午に照をつける。魚を並べ、常連客と話し、夕方にを洗う。
寂しくないと言えば嘘になる。
それでもには、夫と過ごしたが残っていた。壁の傷にも、古い包丁にも、のだけ軋む戸にも、のいが染み込んでいた。
そんなある、健から話がかかってきた。
『母さん、結婚することになった』
静は包丁を置き、濡れたをエプロンで拭った。
「本当なの?」
『うん。今度、彼女を連れていくよ』
数週、健は婚約者の美を伴って帰ってきた。
美は歳。艶のある髪を肩まで伸ばし、価そうなバッグを持っていた。
「初めまして。美と申します」
畳に指を揃え、くをげる姿は非の打ちどころがなかった。
「健さんから、お母さまが女つで支えてこられたと聞きました。本当に尊敬しています」
静は、胸がいっぱいになった。
結婚式の費用は自分がすと決めた。
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健は度断ったが、静は譲らなかった。
「あなたは息子なんだから。母親として、最にさせてちょうだい」
式の、健が同居を提案した。
「母さんもだし、で藤沢にいるのは配だ。俺たちと暮らさないか」
「でも、若い夫婦の邪魔でしょう」
「美も賛成しているよ」
美も静のを握った。
「これからは、私たちがお母さんを支えます」
その言葉を、静は疑わなかった。
を閉め、京にマンションを購入した。
購入資の半は静がした。藤沢の舗兼宅は夫とのいとして残し、へ貸すことにした。マンションも、のため静の単独名義にした。
「いずれ健のものになるのだから」
静はそうっていた。
の暮らしは、最初のかだけは穏やかだった。
だが、ある朝、美が言った。
「お母さん、計は私がまとめて管理した方が便利だとうんです」
の通帳も、貯通帳も、キャッシュカードも。
静は疑うことなく、嫁に渡した。
「族だから」
その言が、自分のを追い詰める鎖になるとはらずに。
変化は、最初はさなものだった。
買い物へくために活費を求めると、美は財布から万円札を取りし、面倒そうに差しした。
「これでりますか?」
静は違を覚えたが、何も言わなかった。
自分はもう商売をしていない。計を管理するにを受け取るのは当然なのだと、自分に言い聞かせた。
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ところが翌週、再びを頼むと、美は骨にため息をついた。
「またですか?」
「材と用品を買うと、どうしても……」
「もうし節約してください。お母さんのだけで全部賄えるわけではないんですから」
静はを疑った。
自分のがどれほど残っているのか、尋ねても教えてもらえない。通帳を見せてほしいと言うと、美は「今は忙しいので」と話を打ち切った。
やがて求される額が増え始めた。
管理費ががった。
気代がくなった。
健の仕事用のスーツが必だ。
美はそのたびに、静の貯からを引きした。
ある午、静はリビングのテーブルに置かれたレシートを偶然見つけた。
級ブランドのバッグ、靴、腕計。
計は万円を超えていた。
購入は、静が「マンションの修繕積が必」と言われ、万円を渡した翌だった。
静の指が震えた。
その夜、健へ相談しようとした。
「健、し話があるの」
しかし美がすぐに割って入った。
「お母さん、今は疲れているみたいです。話はにした方がいいですよ」
優しい言葉とは裏腹に、その目は静を黙らせようとしていた。
健は母親を配するような表を見せたものの、結局は妻の言葉に従った。
「無理しないで休みなよ、母さん」
静は何も言えないまま自へ戻った。
鏡のに、頬のこけた老婆がいた。
藤沢でを切り盛りしていた頃の静は、い魚箱をで運んだ。