"花嫁が僕を犯人にした朝" 第1話
「このです。ドレスを切ったのは、このです」
嫁の奈緒が僕を指さした瞬、支度にいた全員の線が、彼女の指先から僕の顔へ移った。
結婚式まで、あと分。には、純のウェディングドレスが広げられていた。裾のレースは背側からセンチほど、鋭い刃物で斜めに切られている。修復能ではないが、同じレースの予備がなければ、くで見て分からない状態へ戻すのは難しかった。
僕は朝倉湊、歳。ホテル専属の装で、礼の補正と修復を担当してになる。嫁の体形にわせた最終調から、披宴にれたボタンの縫い直しまで、表からは見えない仕事が僕の役目だった。
「奈緒、本当にこの方なの?」
母親の美智子が、震える声で尋ねた。奈緒は唇をかみ、僕を見ないままうなずいた。
「昨の夜、ドレスの保管からてくるところを見ました。ハサミを持っていました」
その言葉だけなら、嘘ではなかった。
昨夜分ごろ、僕は確かに保管にいた。裁ちばさみも持っていた。そして、奈緒もそこにいた。
ただし、僕が部へ入ったには、ドレスの裾はすでに切られていた。
「朝倉さん、説してください」
婚礼部の瀬がい声で言った。普段は客ので決して表を崩さないだが、今はこめかみに汗が浮かんでいる。
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この婚礼は百を招く規模なもので、郎の父親は元で複数の医院を経営していた。
僕は奈緒を見た。彼女の目は赤く腫れている。昨夜泣いていたせいだが、周囲のには、今ドレスを見て泣いたように映るだろう。
「昨夜、保管に入ったことは事実です」
支度がざわめいた。
「ほら、認めたじゃない」
美智子が奈緒を抱き寄せた。郎の浦圭介は、のドレスではなく僕を見ていた。歳の歯科医で、普段は穏やかな笑顔を絶やさない男だったが、その目からは温度が消えていた。
「なぜ切ったんですか」
「僕は切っていません」
「では、何をしていたんです?」
答えられなかった。
昨夜、保管で奈緒は僕に言った。
《の式を、始められないようにしてください》
彼女は自分で裾へハサミを入れたあと、が震えてけなくなっていた。理由を尋ねると、圭介との結婚が嫌なのではない、しかしこのまま結婚すれば、自分は取り返しのつかない嘘へ加担することになる、と話した。
何の嘘なのかは、最まで言わなかった。
僕はドレスを直すため、裾の状態を確認した。裁ちばさみを持っていたのは、切断面をえて応急処置が能か判断するためだった。そこへ廊で物音がし、奈緒は裏からていった。
僕は彼女に、朝までに婚礼担当者へ話すよう約束させた。
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自分で切ったことも、式を止めたい理由も、本のから伝えるべきだとった。
だが、奈緒は今、僕を指さしている。
「答えられないということは、何かあるんですね」
圭介が歩づいた。
「警察を呼びましょう。ドレスは百万円です。式を妨害する目なら、単なる失敗では済まない」
瀬はすぐには警察へ連絡しなかった。まず代わりの装を用し、挙式を予定どおりうことを優先した。装から似た形のドレスを着運ばせ、美智子とスタイリストが奈緒に試着させる。
その、僕は別へ移された。社員証と保管の鍵を預け、事を聞かれるまで待つよう命じられた。
装の同僚、田耶がを持ってきた。歳の彼女は、僕の隣で、補正の仕事をしている。
「朝倉さん、本当にやってないですよね」
「やってない」
「じゃあ、どうして昨夜いたことだけ認めたんですか。黙っていれば、防犯記録を確認するまで分からなかったかもしれないのに」
「入ったことは事実だから」
耶は苛ったようにコップを置いた。
「そうやって、いつも自分に利なところだけ正直ですよね」
僕は返す言葉がなかった。
、別の披宴で装の袖が裂けたも、僕は自分の補正として報告した。本当は、嫁の姉がサイズの違うドレスを無断で試着したのが原因だったが、姉は妊娠初期で、族にられたくないと泣いていた。