"米はあるのに、田を売った" 第8話
太は姉だと分かっていても、最初はらないを見るように目を丸くした。
夕の席で、お糸は製糸を辞めるつもりだと話した。
源蔵は驚いたが、以のように「帰ってこい」とは言わなかった。
「次はどうする」
お糸は父がそう聞いたことに、瞬驚いた。
「町の仕で働かせてもらえるかもしれないの。縫い物をもっと覚えたい」
「は」
源蔵が尋ねると、お糸はわず笑った。
「お父ちゃん、そこ聞くんだ」
源蔵もしだけ笑った。
「のことをらなきゃ、きていけんからな」
庄吉はそれを聞き、父の昔の言葉をいした。
米を作るだけじゃ駄目な世のになった。
あの言葉は、百姓だけの話ではなかったのかもしれない。
お糸が町へて働くことも、庄吉が相を学ぶことも、源蔵が券を握りしめて悩んだことも、すべて同じ変化のにあった。
帰省の最終、お糸は川向こうの田を見にった。自分がをるきっかけのつになっただったが、そこには何事もなかったように稲が育っていた。
「ここ、お父ちゃんの田だったんだよね」
隣にいた庄吉が頷いた。
「今でもそう見えるがあるよ」
「取り戻さないの?」
「父ちゃんは、もういいって」
お糸はし驚いた。
そしてくで作業する源蔵を見ながら、「変わったね」と言った。
庄吉は首を横に振った。
「世のの方が先に変わったんだよ。
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父ちゃんはから追いついただけだ」
お糸は笑った。
「兄ちゃんもね」
庄吉は否定しなかった。
源蔵が50を過ぎる頃、体にはしずつ衰えが見え始めていた。朝くから田へることは変わらなかったが、以のようにい米俵をで担ぐことはできず、庄吉や太に任せる面が増えた。本はのせいだと認めたがらなかったものの、夕方になると腰へを当てて歩くこともくなった。
太は学を終えた、庄吉と緒に田へるようになっていた。ただし兄とは違い、農業そのものにいい入れがあるわけではなく、町の仕事にも興を持っていた。源蔵は昔なら「の田を伝え」と言っただろうが、太がへたいと言っても以ほどく反対しなかった。
族は、田だけでは暮らせなくなった。
それを最も痛い形で学んだのは源蔵自だった。
ある、松井がくなったというらせが届いた。く病気を患っていたらしく、は息子が継ぐという。源蔵と庄吉は町まで弔いにかけた。
帰り、庄吉は父に尋ねた。
「松井さんのこと、んでた?」
源蔵はしばらく考えた。
「田を買われたはな」
「今は?」
「んでも仕方なかったとう」
松井がく米を買ったからが苦しくなったわけではない。税をで納める仕組みに変わり、米価ががり、に現がなく、病気や農具代までなった結果として田を売った。
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そのつつがわさって初めて起きたことであり、誰かだけを責めれば済む話ではなかった。
庄吉も同じようにじていた。
若い頃は、悪いを見つければ問題の理由も分かるとっていた。
だが世のはそんなに簡単ではない。
役も決められた制度を伝えていただけであり、松井も米価に追われていた。父も決して愚かだったわけではなく、ただしい仕組みのできる方法をらなかった。
それでも、失ったものは失ったままだ。
川向こうの田は松井からさらに別のへ渡り、源蔵のへ戻ることはなかった。
祖父の代から続いただからといって、物語の最に奇跡に返ってくることはない。
現実の暮らしには、そういう救いがないこともある。
ある夕暮れ、源蔵は川向こうの田を眺めながら庄吉へ言った。
「俺はな、ずっと恥だとってた」
「何が」
「先祖の田を売ったことだ」
庄吉は黙って父の続きを待った。
「俺の代で減らした。親父がきてたら何て言ったかとってた」
「じいちゃんはったかな」
「分からん」
源蔵はし笑った。
「でも、おらがっていけたなら、それでよかったのかもしれん」
庄吉は返事をしなかった。
あのに田を売らなければ、税を払うためにべる米まで売り、借をねていた能性もある。
太の薬を買えず、お糸ももっと追い詰められた形で町へていたかもしれない。