"遺産は腐った倉庫だけ" 第7話
「お父さん、もうそんなにさくしなくても……」
苗が途で言葉を止めた。
浩司の指も止まった。
父がきていた最の半、事には1くかかった。に運んでもみ込めず、疲れて目を閉じるもあった。それでも父はべ終わると、必ずさくをわせた。
「うまかった」
あの言だけで、次の事も作れた。
「もっとく、ここに来ればよかった」
浩司は写真に向かって言った。
「どうして俺に、この倉庫を残したんだ。何を見せたかったんだ」
返事の代わりに、がシャッターを鳴らした。
供養を終えると、3で片づけを始めた。浩司は父の作業台を壁からしし、裏にたまった枯れ葉を掃こうとした。
千恵は写真のに座ったまま、祖父へ学を辞退したことを報告した。
「来、もう回受けるから。今度は自分のおでく。おじいちゃんが入院した、歩けなくなるのが番つらいって言ってたでしょ。だから、やっぱり理学療法士になりたい」
写真は何も答えない。
浩司は娘のろで唇をかんだ。父の体を起こせず途方に暮れた夜、千恵はまだなのに、介助方法の画を探して緒に練習してくれた。娘が選んだは、8のからまれたものだった。
「必ずかせる」
「お父さん?」
「来じゃない。まだ別の方法がないか探す。父さんにも、そう約束する」
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浩司は写真へ向かってをわせたあと、ようやくちがった。
い作業台はかない。浩司は腰をかばいながら肩を入れた。
「お父さん、無理しないで」
千恵が反対側を押した。
脚がをこすり、作業台の角が側の壁にぶつかった。
ゴン、とい音がした。
浩司はを止めた。
コンクリートの壁なら、くい音がするはずだった。だが今の音には、奥へ抜けるい響きがあった。
浩司は拳で壁を叩いた。
側はい。
央もい。
作業台の真ろだけが、まるで空の箱を叩いたように鳴った。
父がくなる直、止まった計を指で叩き、それからを指した。
浩司は写真のに置いた腕計へ振り返った。
文字盤の針は、あのと同じ420分を指していた。
第7話 の壁
翌朝、浩司はホームセンターで懐灯とさな具を買い、1で倉庫へ戻った。
何かを壊すためではない。壁の状態を確かめるだけだと、自分に言い聞かせた。
相続したと建物の登記類はに積んである。倉庫内の物も、遺言で浩司に譲られていた。それでも、父が隠したものに触れるとうと、のへ忍び込むような緊張があった。
浩司は壁際の釘に残っていた父の作業着をに取った。
胸に「武田精密」と刺繍された、紺の着だった。ほこりを払い、袖を通す。父より肩幅があるためし窮屈だったが、議と背筋が伸びた。
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作業台の脚に古い毛布を挟み、しずつへずらした。背から、腐りかけた板の棚が現れた。棚をすと、壁の部だけ、の塗料がわずかにしかった。
幅は1メートルほど。から井まで、まっすぐな境目がっている。
浩司はスマートフォンで全体を撮し、拳で順に叩いた。
境目のは、コンクリートの詰まった音。
内側は、空洞へ沈む音。
塗膜の端にスクレーパーを入れると、い板がめくれた。から現れたのは、壁ではなかった。
黒く塗られた鉄だった。
浩司は作業を止め、苗に話した。
「倉庫の側に、扉がある」
「扉?」
「壁のに隠してある。俺だけでけないほうがいい。千恵と緒に来てくれ」
30分、苗と千恵が到着した。浩司は2ので、残りの板をした。鉄扉には取っがなく、鍵穴も見当たらない。端くに指先ほどのくぼみがあり、そこへ具を差し込むと、隠し具が起きがった。
浩司が具を引く。
鉄扉はい音をて、内側へいた。
たい空気が頬に触れた。
その先は、幅3メートル、奥き5メートルほどの部だった。の倉庫とは違い、も壁も乾いている。湿気を逃がす細い換気管が井を通り、には古いで使われた械基礎が残されていた。
壁の内側には旧2種類のコンクリートが使われていた。周は倉庫が建てられた当のものだが、隠し部の周囲だけはからく打ち直されている。