"遺産は腐った倉庫だけ" 第4話
「無理にそうわなくていい」
「無理じゃない」
千恵は顔をげた。
「8、お父さんがいなかったら、おじいちゃんはで暮らせなかった。それは私もお母さんもってる」
苗も黙ってうなずいた。
浩司は作業着を段ボールへ入れようとして、を止めた。胸の刺繍が目に残ったからだ。
ポケットから父の計を取りす。
裏蓋にも、同じ《武田精密》の文字が刻まれていた。
作業着はの制だった。だが計は、販品の裏へ父が自分で文字を彫ったものらしい。最の「密」の払い方まで、刺繍の原図とよく似ている。
浩司は親指で刻印をなぞった。
なぜ父は、倉庫とは別の項目を作ってまで、この計を自分へ残したのか。
そしてなぜ、くなる直に計を叩き、を指したのか。
浩司はもう度、側のの壁を見た。
第4話 履歴の空
倉庫をすぐ売却することはできなかった。
漏りの補修、残置物の処分、の境界確認。どれにも費用がかかる。元の産会社へ写真を見せると、担当者は建物を解体して更にしなければ買いを探すのは難しいと答えた。
浩司には、事費を先に払う余裕がなかった。
族3は具付きの期賃貸へ移った。2部しかなく、千恵が勉するには、浩司と苗が台所の照だけで過ごした。
父の葬儀費用と引っ越し代で、わずかな貯も減っている。
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浩司は8ぶりに履歴をいた。
最初に訪ねたのは、介護職まで15勤めていた精密部品だった。
かつて同じ作械を使っていた同僚は、今ではになっていた。彼は浩司の履歴を読み、最の勤務歴と現のにある8の空で線を止めた。
「浩司が腕のいい職だったことは、俺も覚えている」
「最の械は勉し直します。料もと同じで構いません」
「気持ちは分かる。ただ、この8で制御装置も検査基準も変わった。今は若い経験者の応募も来ている」
は履歴を机の端へ置いた。
「それに、腰を痛めているんだろう」
父の体を何度も抱き起こすうち、浩司は性な腰痛を抱えていた。面接で隠すつもりはなかった。
「作業には支障ありません」
「事故が起きてからでは遅い。悪いが、正社員としては雇えない」
浩司は履歴を封筒へ戻し、をげた。
そのも3社を回ったが、結果は同じだった。8の空と腰の状態を確認されると、面接はすぐに終わった。
翌週から、浩司は朝の材派遣事務所へ通い始めた。
名が呼ばれたは建設現へ向かい、資材を運んだ。呼ばれなければ、そのの収入はない。精密部品を1000分の1ミリ単位で削っていた技術は、雇い作業の名簿にはかれなかった。
3週目、セメント袋を担いで仮設階段をっていただった。
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腰の奥が突然固まり、脚へ鋭い痛みがった。もう段ろうとしたが、に力が入らない。
肩から滑った袋が階段へ落ちた。
きな音に、にいた班が顔をげた。
「危ないだろう! 無理ならりろ」
「すみません。続けられます」
「代わりはいくらでもいるんだ。怪をするに判断しろ」
浩司はすりをつかみ、ゆっくり腰を伸ばした。ここで帰れば、そのの賃は減る。
「丈夫です。やらせてください」
昼休みに鎮痛剤を2錠み、定まで働いた。
夜、期賃貸へ戻ると、苗がめた噌汁を温め直していた。千恵の姿はない。
「今もコンビニ?」
「22まで。学が終わってから入ったみたい」
卓には、千恵の学格通と納付がねて置かれていた。
千恵は県内の学に格していた。齢者福祉を学び、将来は理学療法士になりたいと言っていた。
祖父の歩訓練へ付き添ううちに決めただった。では成績位を保っていたが、予備には通わず、受験料の部も自分のアルバイト代からした。苗が祖父の通院へ付き添うは、学から帰った千恵が事を作り、洗濯物を取り込んだ。
介護をしていたのは、浩司1ではない。
それでも千恵は、父にも祖父にも度も「自分のを返して」と言わなかった。
浩司は納付をに取った。
入学と期授業料をわせて、82万円。
納付期限は32。付を囲むように、千恵の赤いペンで丸がつけられている。