みかん小説
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"遺産は腐った倉庫だけ" 第2話

「もう介護は終わったんだ。おたちがみ続ける理由はないだろう」

「引っ越し先もまだ決まっていない。せめて荷物をまとめるがほしい」

「今に全部持ちせとは言っていない。ただし、今夜から寝泊まりはするな。鍵は置いていけ」

権を争うつもりなら、浩司にも取れる段はあった。8暮らし、父を介護してきたである。野弁護士も、け渡しの期限は改めて話しうべきだと裕へ伝えた。

しかし浩司は争わなかった。

父の遺にして、の所権をめぐって鳴りいたくなかった。何より、これ以妻と娘を兄夫婦の言葉にさらしたくない。

ポケットから鍵をし、美咲の掌ではなく、その横のテーブルへ置いた。

乾いた音が鳴った。

「荷物は夕方までに運びます」

美咲は鍵をつかみ、満そうにバッグへ入れた。

浩司たちの私物はくなかった。父の介護用ベッドと医療器具が半を占めており、自分たちの物を増やす余裕がなかったからだ。

苗が所の運送会社へ連絡し、空いていた型トラックを1台配した。今夜からは、内にある具付きの期賃貸へ入ることにした。

浩司が寝のクローゼットをけると、段に積んでいた類の束が崩れ落ちた。

8分の介護記録だった。

朝8、血圧の薬。昼12、糖尿病の薬。

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夕方18、インスリン注射。事量、体温、排泄の状態まで付ごとにいてある。

その横には病院の領収、訪問護の報告、救急来の受付票がごとに束ねられていた。術同や入院申込元引受欄には、すべて同じ名がある。

武田浩司。

兄の名かれたは1枚もなかった。

記録のには、父が浩司の名せなくなった夜のことも残っていた。

《215分、父、覚。「あなたは誰だ」と3回確認。分を摂取、310分入眠》

その夜、浩司は父へ自分の名を答えるたび、初対面のを見るような目を向けられた。それでも朝になれば事を作り、薬を並べ、何もなかったように父の体を起こした。

の欄には、父の震える字でさく《すまない》とされていた。

「そんなものまで持っていくの?」

振り返ると、美咲が部の入っていた。

「父の記録です」

「もうくなったの投薬表でしょう。ゴミをしい部まで運ぶつもり?」

美咲は浩司の返事を待たず、類の束を奪った。廊に置かれていたきなゴミ袋をき、そのへ押し込む。

も順番どおりに保管してきたが、袋ので音をてて折れ曲がった。

「このに残された品は、こちらで処分するから」

浩司は美咲を押しのけなかった。へ膝をつき、ゴミ袋へを入れた。

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しわになった投薬表を1枚ずつ取りし、折れた領収を伸ばす。

「これは、私の物です」

声はきくなかった。

それでも美咲は、もう度奪おうとはしなかった。

の先では、18歳の千恵が古い額縁を胸へ抱えていた。6歳の千恵が、祖父の膝ので笑っている写真だった。

は病気がみ、孫の名せないが増えても、その写真だけは枕元からかさなかった。

「それも置いていきなさい」

美咲が千恵のを止めた。

「これは私とおじいちゃんの写真です」

「額縁はこのにあった物でしょう。遺言では、の物も裕さんが管理することになっているの」

遺言にそんな文言はなかった。野弁護士はすでに帰っており、裕は居の名義変更について話している。

「写真だけします」

千恵が留め具へ指を掛けると、美咲は額縁を引いた。

「みっともない真似をしないで」

千恵の指が滑り、額縁はその腕から抜けた。

「おじいちゃんのにあった物は、おじいちゃんのに残す。それだけでしょう」

美咲は写真を持ったまま、居へ戻っていった。

千恵は泣かなかった。ただ、何かを抱いていた形のまま残った両腕を見ろしていた。

苗が娘の肩を抱いた。

浩司は介護記録の束を封筒へ入れ、段ボール箱のに置いた。

夕方、荷物を積んだ型トラックがた。

浩司は助席から、父と暮らしたを振り返った。

には裕が相続したまり、美咲はすでに表札の汚れを拭いている。

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