"遺産は腐った倉庫だけ" 第1話
第1話 腐った倉庫だけ
「自宅と田畑、預、乗用のすべてを、男の武田裕に相続させる」
野弁護士が公正証遺言を読みげると、裕の妻、美咲の元がわずかにがった。
野県岡の古い本には、線の煙がまだ残っていた。仏壇脇に飾られた遺ので、父の正は作業着姿のままを見ている。
父がくなってから5。葬儀を終えたばかりの居に、武田の親族と弁護士が集まっていた。
裕は座に座り、腕を組んでいる。54歳になる彼は松本でさな産発会社を経営しており、葬儀のも何度か席をして話をしていた。
最は県の太陽発事業へ資する話を親族へ繰り返していた。父の田畑が自分へ渡ると分かると、文子へ「遊ばせているを担保にすれば、事業を気に広げられる」とまで話している。
父が築いた財産を守るより、次の投資へ使うことしか考えていなかった。
父の枕元へ毎通ったことはない。
8で見いに来たのは2回だけだった。1回目は父がまだ話せた頃、の名義について尋ねた。2回目は病へ入らず、廊へ浩司を呼びし、通帳と実印の保管所だけを聞いて帰った。
それでも遺言では、父が最まで暮らしたも、田畑も、預も、級乗用も男へ渡る。
美咲はテーブルので夫の腕へ触れた。
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「お義父さんは、最まで分かっていたのね」
誰に聞かせるでもない声だったが、向かいに座る浩司にははっきり届いた。
49歳の浩司は、両膝にを置いたまま遺言を聞いていた。そのには細かなひび割れがあり、指先には消毒液の匂いが染みついている。
3まで、そので父の背を拭き、薬をませ、汚れた寝巻きを取り替えていた。
夜に父が何度起きても、浩司はそのたびに体を起こした。糖尿病の注射も、血圧の記録も、事の介助も続けた。以勤めていた精密加会社を辞めたのは、父が1で歩けなくなった8である。
妻の苗はパートを増やし、娘の千恵も卒業をにアルバイトを始めた。
族3で父を支えてきたが、そのは遺言の表面にはかれていなかった。
野弁護士が次の項目へんだ。
「岡郊にある倉庫、その敷及び倉庫内の切の産を、次男の武田浩司に相続させる」
親族のにい沈黙が落ちた。
最初に吹きしたのは、父の妹である文子だった。
「あの倉庫って、昔の具を置いてあるところでしょう。根も崩れかけていたじゃない」
美咲も笑いを隠さなかった。
「解体費のほうがよりくつくんじゃないかしら」
裕は弟を見た。
「介護をしていたんだから、親父も何か残さなきゃ悪いとったんだろう。
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倉庫だけでもありがたく受け取れよ」
浩司は答えず、遺へ線を向けた。蛍灯のが額縁のガラスに反射し、父の目だけが見えなくなっている。
野弁護士は最の文を読んだ。
「なお、被相続が使用していた腕計1点は、項とは別に武田浩司へ相続させる」
弁護士の鞄の隣には、古い械式腕計が置かれていた。革ベルトはひび割れ、ガラスには何本もの傷がっている。針は20分、針は4を指したまま止まっていた。
裕が計をつまみげた。
「わざわざ遺言にくほどの物か、これ」
裏返しても価値が分からなかったのか、弟へ渡そうともしない。
「遺言にかれたガラクタも、ちゃんと持っていけ」
裕は指をした。
計は畳へ落ち、度転がって浩司の膝ので止まった。
苗の肩がいたが、浩司は妻を制するようにさく首を振った。腰をかがめて計を拾い、袖でガラスの埃を拭う。
計の裏には、《武田精密》というい刻印があった。
父が30以経営していた町の名だった。
浩司が計をポケットへ入れると、美咲が席をった。彼のまで来て、を向きに差しす。
「では、鍵を」
「何の鍵ですか」
「このの鍵に決まっているでしょう」
美咲は遺言を顎で示した。
「今からここは、うちの主のです」
第2話 8分の記録
「父さんのまでは、ここにいさせてもらえないか」
浩司が尋ねると、裕は骨に顔をしかめた。