"山に捨てられた妻は立ち上がる" 第6話
佳奈は息を止め、へ識を集した。
親指が、わずかに内側へ曲がった。
自分の目で見ていなければ、いたとは信じられないほどさな変化だった。
「反射だけかもしれません。今度は私が触らずに試します」
美咲は両をした。
「親指を、自分の方へ引くつもりでかしてください」
佳奈は先へ命令を送った。け。もう度、私の言うことを聞いて。
額に汗がにじんだ。歯をいしばり、息を止めて力を込める。それでも親指はかない。
やはり最初の反応は偶然だったのか。そうった直、の親指が数ミリだけ持ちがった。
美咲が息をのんだ。
「今のは反射ではありません。鈴さんがかしました」
佳奈は先を見たまま、まばたきもできなかった。覚はほとんどない。それでも、んだとっていた神経が自分のに答えた。
目尻から涙が流れ、枕へ落ちた。
「また歩けますか」
浦は期待だけを持たせる答えをしなかった。
「能性はあります。ただし、どこまで回復するかは分かりません。数週で結果がるものでもありません」
「ならあります。必なことは全部やります」
「痛みもます」
「夫にを奪われるより、ずっとましです」
佳奈はへを伸ばした。自分の脚なのに、たくいの体のようだった。それでも、もうんでいるとはわなかった。
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健が消そうとした能性が、数ミリのきになって目のへ戻ってきたのだ。
浦はそののうちに治療方針を修正した。偽造の疑いがある拒否申は原本を保全し、佳奈本の確認がわれていなかった経緯も記録する。リハビリは翌朝から正式に再されることになった。
診察を終えた美咲は、病をるにを止めた。
「つだけ、確認してもいいですか」
佳奈が顔をげると、美咲は声を落とした。
「ご主ので反応できないんじゃなくて、反応しないようにしているんですよね」
佳奈は数秒黙ったあと、初めてはっきりとうなずいた。
「あののでは、まだ眠っていることにしてください」
第6話 眠ったふりの妻
佳奈のリハビリは、毎朝7から始まった。
健が病院へ来るのはくても10過ぎだった。浦と美咲はそれまでに訓練を終え、佳奈を病へ戻した。診療記録は通常どおり残したが、健から問いわせが来たは、本の同がないため詳細を伝えられないと答える方針に統した。
最初の1週は、の指をかすだけで終わった。
美咲が裏に刺激を与え、佳奈が同じ所へ識を集める。10回試して1回けばいい方だった。いても数ミリで、次のには再び反応しなくなることもあった。
「昨できたのに、どうして今はできないの」
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焦りをにした佳奈へ、美咲は淡々と答えた。
「神経は気の線と同じように、つないだらすぐ元どおりになるものではありません。回りするしいを、体がしずつ作っている途です」
佳奈はその説を聞き、設計の仕事をいした。盤がければ、同じ所へ無理に柱をてない。荷を別の柱へ分散し、建物全体で支える構造を考える。
今、自分の体もしいを設計しているのだ。
2週目には首がき、3週目には膝へ力を入れられるようになった。ベッドの端に座り、半を支える訓練も始まった。腕と腹筋を使えば、介助を受けながら子へ移ることができた。
訓練のたび、美咲はできた作だけでなく、できなかった作も記録した。首の角度、膝を伸ばせた秒数、支えが必だった位置。佳奈はその数値を毎ノートへ写し、との差を確認した。
0だった数字が1になり、1が3になる。それはさな変化だったが、健が作った「回復能」という筋きを、体が1ずつき換えていた。
初めて訓練の平棒を握った、佳奈は両脚に装具を付け、美咲ともう1の療法士に腰を支えられた。
「今はちがるのではなく、へ体を掛ける覚だけ確認します」
佳奈は両腕に力を込め、腰を浮かせた。
の裏に鈍い圧力が伝わる。
痛みともとも違う、い覚だった。膝が震え、数秒で力が抜けたが、佳奈は確かに自分の脚で体の部を受け止めた。