"山に捨てられた妻は立ち上がる" 第2話
森も、朝の全点検では異常がなかったと証言した。
だが佳奈は覚えていた。
落する直に見たボルトの断面は、錆びた茶ではなかった。
具で削ったばかりのように、にっていた。
第2話 献な夫
「脊髄そのものが完全に断裂したわけではありません」
担当医は画像を示しながら、健と佳奈に説した。
落の衝撃で胸椎を骨折し、脊髄がく圧迫された完全脊髄損傷。術によって圧迫は取り除かれたものの、佳奈の両脚には覚も運能も戻っていなかった。
「回復の程度は現点では断言できません。ただ、をかけて神経が反応する能性は残っています」
健は目元を押さえ、医師へ々とをげた。
「どれだけがかかっても構いません。妻のために、できることは全部してください」
廊にいた護師まで目を潤ませた。
事故から数で、健は病院内でもられるになった。毎を持って現れ、医師には細かく経過を尋ね、会社から来た見客のでは佳奈のを握り続けた。
「会社のことは配するな。俺が守る」
社員のでそう言った、専務である健を疑う者はいなかった。
健はもともと、鈴設計の営業担当として入社した社員だった。佳奈と結婚した際、自分から鈴姓を選んだ。当たりがよく、取引先との会や融関との折衝を得としていたため、佳奈は設計以の仕事をしずつ任せてきた。
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だが会社がきくなるにつれ、周囲は健を名ではなく「鈴社のご主」と呼ぶようになった。そのたびに彼が笑顔のまま奥歯をかみしめていることを、佳奈はっていた。
以、佳奈が代表権を共同にしようと提案したこともある。健は「夫婦なのに肩で分ける必はない」と断った。佳奈は欲のないだとっていたが、今になれば違うにも聞こえた。
面会客が帰り、病のドアが閉じると、健は握っていたを放した。ソファに腰をろしてスマートフォンを見始め、佳奈とは度も目をわせなかった。
「を……取って」
麻酔の響で、佳奈の声はかすれていた。
健は枕元の差しを見たが、ちがろうとしなかった。
「さっきんだだろ。みすぎると夜、護師を呼ぶことになる」
それでも佳奈がを伸ばすと、彼は差しをテーブルの奥へ移した。佳奈の指先から、さらに20センチい所だった。
「俺も会社で疲れてるんだ。しはしてくれ」
その言葉を残し、健は帰った。
30分、巡回に来た若い護師が、奥へ押しやられた差しに気づいた。
「ご主が置かれたんですか」
佳奈がさくうなずくと、護師は何も言わず、ストロー付きのカップへを入れてくれた。乾ききった喉へが流れ込んだ瞬、佳奈の目に涙がにじんだ。
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痛いからではなかった。22連れ添った夫より、名もらない護師の方が、今の自分をとして扱ってくれたことがしかった。
翌、健は医師へ転院を申した。都の急性期病院から、王子にある回復期リハビリテーション病院へ移したいという。
「静かな環境で休ませたいんです。会社関係者が次々に来ると、妻も落ち着かないでしょう」
佳奈はすぐに反対できなかった。鎮痛薬を投与されると識が沈み、数の記憶が曖昧になる。医師の説を聞いても、内容を理するに眠ってしまった。
転院の、鈴設計の財務部、林直美が病を訪れた。
「社、これだけは確認していただきたいんです」
林が類をそうとすると、健がへ入った。
「今は仕事の話を聞かせる状態じゃない。俺を通してくれ」
「ですが、の代表者権限と会社印の変更申請が――」
「医師から刺激を避けるように言われているんだ」
健は林を廊へ押しし、扉を閉めた。
ガラス越しに、林がいがる姿が見えた。健は廊へて、い声で何かを言った。林の顔から血の気が引き、持っていた封筒を胸へ引き寄せる。
病へ戻った健は笑っていた。
「林も配性だな。おが倒れたせいで、会社が混乱している」
佳奈は返事をしなかった。
林は18、数字が1円わないだけでも原因を突き止める社員だった。