"消された名前" 第2話
「これは……」
佐伯さんは静かに言った。
「製作所が最初に作った資料です」
「でも、会社の記録には残っていません」
私は顔をげた。
「どういうですか?」
佐伯さんはし迷った。
そして言った。
「さん」
「あなたは、本当にご自をただの主婦だとっていますか?」
私は答えられなかった。
なぜなら。
その質問を。
番自分自にしていたからだ。
その夜。
私は久しぶりに夫へ話をした。
「圭介」
「どうした?」
「聞きたいことがある」
「何?」
私は写真のことを聞いた。
会社の資料のことを聞いた。
すると。
話の向こうが静かになった。
い沈黙。
その沈黙で分かった。
夫はらなかったのではない。
忘れていたのでもない。
っていた。
ずっと。
「……由美」
「何?」
「それは、もう昔の話だろ」
その言で。
胸の奥がたくなった。
昔の話。
20、私が忘れていたもの。
それは会社のことではなかった。
私は。
私自のを。
夫ので、いつから昔の話にされていたのだろう。
佐伯さんが帰ったも。
私はしばらく会社の会議に残っていた。
机のには、20の資料。
古い。
し黄ばんだ帳。
そして、私の名がかれていない計画。
議だった。
懐かしいはずなのに。
なぜか、のを見ているような気持ちだった。
「さん」
佐伯さんが戻ってきた。
「まだしはありますか」
私は頷いた。
「聞かせてください」
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「何をですか?」
「20のことです」
佐伯さんは静かに子に座った。
「本当のことを、誰にも話していませんでした」
その言葉に、私は顔をげた。
「誰にも?」
「社にも」
瞬、が分からなかった。
「でも、圭介はっていたんですよね?」
佐伯さんは答えなかった。
その沈黙が、答えだった。
20。
製作所は、まだ会社と呼べる状態ではなかった。
さな。
社員は。
売も定していない。
圭介は毎、そうな顔をして帰ってきた。
「このまま続けていいのかな」
夕をべながら、何度もそう言っていた。
私はそのたびに言った。
「続けたいなら、続ければいい」
「でも、おが……」
「考えればいい」
「で」
当の私は、会社経営の識なんてなかった。
でも、を見ることだけは得だった。
圭介は技術を持っていた。
ものを作る才能があった。
でも。
に伝えること。
計画をてること。
数字を見ること。
そこが苦だった。
だから私は伝った。
最初は本当にさなことだった。
取引先への話。
資料理。
経費の確認。
社員との相談。
気づけば。
私は毎晩、会社の未来について考えていた。
ある夜。
圭介が机に突っ伏していた。
「もう無理かもしれない」
私は何も言わず、温かいお茶を置いた。
「何が?」
「会社」
「まだ始まったばかりでしょう」
「でも、俺には才能がないのかもしれない」
その言葉を聞いた。
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私はしった。
「圭介」
「何?」
「あなたが諦めたら、今まで頑張ったたちはどうするの?」
圭介は黙った。
「社員さんたちは、あなたを信じてる」
「だから、あなたも自分を信じて」
その。
圭介は泣いた。
そして言った。
「由美がいてくれてよかった」
私はその言葉だけで分だった。
数。
会社はしずつ成した。
社員も増えた。
取引先も増えた。
そして。
圭介は社になった。
私は嬉しかった。
本当に嬉しかった。
だから。
ある、圭介から言われた言葉にも頷いた。
「由美」
「会社の表にるのは、俺だけにしてほしい」
私はし驚いた。
「どうして?」
「男社会だから」
「由美がにると、変な見方をされるかもしれない」
「俺が守るから」
私はその、疑わなかった。
圭介なりの優しさだとった。
「分かった」
そう答えた。
それが。
私が消える最初のだった。
「つまり……」
私は佐伯さんを見る。
「私が会社にいたことを、みんなっていたんですか?」
「はい」
「社員も?」
「古い社員は全員」
「じゃあ、どうして誰も……」
言葉が止まった。
佐伯さんは苦しそうに言った。
「奥様が望んだからです」
私は黙った。
確かに。
私は言った。
「圭介を支えてほしい」
「社としてててあげてほしい」
でも。
そんなではなかった。
私は自分のを消したかったわけではない。
ただ。
緒に作ったものを、切にしたかっただけだった。
帰宅すると。
部は静かだった。
以なら、圭介の帰りを待つだった。
今は違う。
私はだった。
蔵庫をける。
習慣で分の材を買っていたことに気づく。