"七年目の爪痕" 第9話
「無効だ! そんな遺言、絶対に無効だ! 嫁ごときに親父が全財産を渡すわけがないだろうが! 貴様、この女とグルになって、ボケた親父を脅してかせたな!? 偽造だ、私文偽造だ!」
「俊介さんのおっしゃる通りですわ!」
淑恵が泡をったように喚きてる。顔のが剥がれ落ち、鬼のような形相になっていた。
「あのは私の夫よ! 法定相続である私たちが何もらされていないなんて、法が許すはずがありません! 公証役が何だっていうのよ! 裁判よ、裁判にしてやるわ!」
ソファーのから覗き見ていた美咲は、事態の異常さを察したのか、青ざめた顔でじりじりと退し始めていた。
野寺は、掴みかからんとする俊介のを、類を挟んだバインダーでピシャリと払いのけた。
たい、侮蔑すら含んだ線が俊介を射抜く。
「裁判? ええ、結構ですよ。どうぞ提訴してください。主治医の認能鑑定、公証役の作成録取、すべて完璧に揃っております。最裁まで争っても、あなた方の勝率は万につもありませんがね」
野寺は懐からボールペンをし、帳をいた。
「それよりも俊介殿。あなたが今、配すべきは遺言の効性ではありませんよ」
「……何だと?」
「本午、あなたが当の川越支において、この佐伯邸を無断で担保に入れ、千万円の融資を正に実しようとしていた件についてです」
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俊介の体が、ビクリと直した。
目を見き、呼吸を止める俊介の元に、野寺の容赦ない声が注ぎ込まれる。
「私は今朝番で、貴の本部コンプライアンス統括部、並びに事監査部に対し、遺言執者の権限に基づき『違法融資および顧客財産の私流用に関する調査申』を提してまいりました」
「な……な……」
「さらに、泰造様が、の内部監査予告通を保管しておられたことも、すべて証拠として提いたしました。今頃、川越支のあなたのデスクには、本部の監査官が踏み込んでいるはずですよ」
「ひっ……!」
俊介の喉から、カエルの潰れたような鳴が漏れた。
ポケットので、俊介のスマートフォンが狂ったように振を始めた。
画面には『川越支 支』の文字。
度、度、度。執拗な着信のが、俊介の蒼な顔を照らしす。
俊介は震える指で通話ボタンを押すことすらできず、ただ狂ったようにを抱えてずさった。
「嘘だ……嘘だろ……なんで親父が……なんでおが……!」
に崩れ落ちる俊介を見ろしながら、真帆は歩へ踏みした。
、度として彼らに逆らえず、常に畳に額を擦り付けるようにしてきてきた女のが、堂々と佐伯の玄関の框をがった。
淑恵が怯えたようにずさる。
「ひ、真帆さん……な、何よ、その目は……」
真帆は、淑恵の目を、そしてにいつくばる俊介の目を、ややかに見据えた。
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「お義母さん。俊介さん」
その声は、驚くほど静かで、それゆえに抗いようのないみを持っていた。
「昨夜、あなたたちは私に言いましたね。『今夜にてけ。この敷におの居所はない』と」
真帆は胸元から、鍵を取りした。
今朝、のデスクで見つけた、正真正銘の佐伯邸のマスターセキュリティキー。
カチリ、と玄関ドアの端末にかざすと、子錠が緑のランプを点灯させ、厳密な認証音を響かせた。
「その言葉、そっくりそのままお返しします」
真帆は、に散らばったままだった万円の札束を、靴の先で俊介の膝元へ蹴り戻した。
「このは、今から私のものです。あなた方こそ、今すぐ荷物をまとめててってください」
だが、にへたり込んでいた俊介が、血った目で真帆を睨みげ、獣のように唸り声をげた。
「ふ……ふざけるな……調子に乗るなよ、真帆……!」
俊介は爪をにて、ギチギチと音をてながらい起きてきた。
「遺言が何だ! 法律が何だ! 俺には『遺留分』があるんだよ! 実の息子の権利を、切れ枚で奪えるとうな! このを売り払ってでも、俺に千万円の現を寄越せ! を払うまで、俺はここを絶対に歩もかないぞ!!」
絶望の淵にたされた俊介が、最の悪あがきとして振りかざした法の盾。
だが、その言葉を待っていたかのように、野寺弁護士が鞄からもう冊の、極めて分い黒いファイルを音をてて玄関の靴箱のに置いた。