"七年目の爪痕" 第8話
階から駆けりてきた由梨が、スマートフォンで撮した部の写真を俊介に見せた。
「向きの番広い部、私のウォークインクローゼットにするから。あ、あの部にあった古臭い桐の箪笥、邪魔だからゴミ収集に連絡しといてよ」
「ああ、全部捨てていいぞ。親父の遺品も、あの女の私物も、この際すべて処分だ」
俊介は腕計を見た。午分。
「よし、そろそろ法務局との連が来るだ。母さん、親父の実印との権利証は持ったな?」
「ええ、仏壇の引きしからして、俊介の鞄に入れておいたわよ。これで名実ともに、このはあなたのものね」
淑恵が満そうに頷く。
俊介にとって、この産の相続登記は単なる遺産継承ではなかった。
彼が個なFX取引で背負った千万円の焦げ付き。それを穴埋めするために支の架空座から流用した資の決済期限が、今週末に迫っていた。
この敷を担保にから正規の産担保ローンを引きし、流用したをれず戻す。そうすれば、誰にも横領をられることなく、次の子も、この広な敷も、若いも、すべて自分の元に残る。
完璧なシナリオだった。あの無で従順な真帆を、着の着のままで追いしたことも、すべてはこの計画を狂わせないためだった。
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ピンポーン。
なインターホンが鳴り響いた。
「来たな。司法士の先だ」
俊介はネクタイを締め直し、勝ち誇った笑みを浮かべて玄関へと向かった。
美咲と淑恵、由梨も、たな佐伯の主のれ姿を見届けるように、ろからついていく。
俊介が気揚々と玄関の引き戸を勢いよくけた。
「おはようございます、先! お待ちしていまし――」
言葉が、喉の奥で氷のように凍りついた。
たたきの向こうにっていたのは、俊介が配したはずの元の司法士ではなかった。
仕てのいいダークグレーのスリーピースにを包んだ、見らぬ鋭いの男性。
そして、その隣に――。
黒いトレンチコートを羽織り、背筋を凛と伸ばした、佐伯真帆がっていた。
昨夜の、にまみれ、俯いて震えていた女の面はどこにもない。
たく澄んだその瞳が、まっすぐに俊介の顔を射抜いていた。
「……ま、真帆?」
俊介の喉から、の抜けた声が漏れた。
ろにいた淑恵が、甲い鳴のような声をげる。
「な、何よあなた! どの面げて戻ってきたの! 俊介、警察を呼びなさい! 法侵入よ!」
由梨も眉を吊りげ、美咲のろから喚きてた。
「ちょっと、あんた何様のつもり!? ここはもうあんたのじゃないのよ! さっさと消えなさいよ!」
だが、真帆の隣につ男性が歩にると、胸ポケットから弁護士バッジを提示し、く威厳に満ちた声でそのを圧した。
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「静粛にしなさい」
その言で、玄関の空気が瞬にして凍りついた。
「私は弁護士の野寺律と申します。故・佐伯泰造様の遺言執者として、ここにまいりました」
「ゆ、遺言執者……?」
俊介の顔から、急速に血の気が引いていった。
「何を馬鹿なことを言っているんだ! 親父が遺言なんて残しているはずがない! 親父はからも利けない寝たきりだったんだぞ! そんなペテンが通用するか!」
「お静かに、佐伯俊介殿」
野寺はややかに微笑むと、鞄から通の類を取りし、俊介の目のに突きつけた。
「これは、京法務局所属公証によって作成された公正証遺言の謄本です。そして今朝午分をもちまして、さいたま方法務局において、本産に対する『遺言執に伴う所権移転登記の申請』および『処分禁止の仮処分』の申してが受理されました」
「処、分禁止……?」
俊介のが、ガクガクと震え始めた。
野寺は、酷な宣告をす裁判官のように、淡々と類を読みげた。
「――『遺言者・佐伯泰造は、その所する末尾記載の、建物、並びに信託の全財産を、男の妻・佐伯真帆に遺贈する』。……以です」
玄関先が、完全な静寂に包まれた。
がりの庭の々から、滴がポタリと落ちる音だけが、異様なほどきく響き渡った。
「ふざけるなッ!!」
沈黙を破ったのは、俊介の絶叫だった。
額に青筋を浮かべ、唾を撒き散らしながら、俊介は野寺の胸倉を掴まんばかりに詰め寄った。