"七年目の爪痕" 第2話
この敷は俊介が継ぐの。あなたのようなに坪たりとも渡すはありませんことよ」
奥のソファーからは、京で暮らしているはずの義妹・由梨が、スマートフォンを弄りながらあざ笑うような声をげた。
「お兄ちゃん、くその汚いゴミ袋どかしてよ。今夜から私がこのれを装部にするんだからさ。消毒スプレー撒かないと、老と介護の臭いが染みついてて耐えられないんだけど」
世界が音をてて崩壊していく。
、真帆が耐え忍んできた々のすべてが、このの目には「無価値なゴミの奉仕」としか映っていなかったのだ。
真帆は膝をつきそうになるのを、奥歯を噛みしめて堪えた。爪が掌にい込み、血のがのに広がった。
「……私の荷物を、勝に漁ったの?」
「く荷造りして追いせってお母さんが言ったから、適当に詰めてやったのよ。謝してほしいくらいね」
由梨がややかに言い放つ。
真帆はのに落ちた万円には目もくれず、破れかけたスーツケースに詰め込まれたを抱え直した。
叫びしたい衝を、喉の奥に押し込める。ここで泣き喚けば、彼らのう壺だ。これ以、この醜悪なたちので自分の尊厳を滴たりとも削らせるわけにはいかない。
「……わかりました。今すぐます」
真帆の声は、自分でも驚くほど乾ききっていた。
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「おい、鍵を置いていけ」
俊介がを差しす。
真帆はキーケースから、扉の鍵と玄関の鍵をし、俊介の元に投げ捨てた。
カラン、とたい属音が響く。
「度とその面を見せるなよ。、役所に婚届をして終わりだ」
俊介の嘲笑を背に受けながら、真帆はスーツケースとつのビニール袋を抱え、玄関のへた。
背で、い引き戸が乱暴に閉ざされ、内側から鍵が掛けられる音がした。
が、喪の肩を容赦なく濡らしていく。
敷のをる直、真帆のに、玄関のから俊介の甲い声が聞こえてきた。
「おい、鍵か? ああ、佐伯だ。すぐに来てシリンダーごと交換してくれ。厄介払いしたばかりの女が、万がにもスペアキーで侵入してきたらたまらんからな」
真帆は度も振り返らず、暗い夜へを踏みした。
だが、俊介たちはまだらなかった。
敷の玄関で、呼びされた元の老鍵職が、懐灯で玄関ドアの錠を照らしながら、怪訝そうに首を捻っていたことを。
「……おい、旦。これ、うちじゃいじれねえぞ」
「は? 何言ってんだ、なら払うからさっさと壊してしい鍵をつけろ!」
苛つ俊介に対し、鍵職はドアの側面に刻印された極の真鍮プレートを指差した。
「これ、特注の子ロックシリンダーだ。かに、都内のセキュリティトラストが施してる。
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マスター権限の登録番号が、旦の言ってる契約者番号とまるで違うんだよ。所者の許諾証がねえと、警察呼んでもこじけられねえ代物だぞ。……あんた、本当にこのの名義なのか?」
夜のの、俊介の狼狽する声が、音にかき消されていった。
駅の線沿いにある、泊千円の古いビジネスホテル。
湿気と煙の匂いが染みついた畳のシングルルームに、真帆は崩れ落ちるように座り込んだ。
濡れた喪のまま、ベッドの端に腰をろす。
の吹きしからぬるいが微かに唸りをげているが、指先のたさは向に消えない。
「……終わったんだ」
度目の呟きは、玄関先で漏らしたそれとはまるでが違っていた。
解放など欠片もなかった。胸の真んにぽっかりと黒い穴がき、そこをたい隙が吹き抜けていくような、耐え難い虚無。
、真帆は何のためにきてきたのか。
泰造が脳梗塞で倒れたのは、真帆が歳のときだった。
建築士としてのキャリアがようやく軌に乗り、願だった公共施設のコンペにチームの員として参加することが決まった矢先の劇だった。
『真帆さん、頼む。親父を見捨てないでくれ。俺は今、で次への世がかかった事な期なんだ。おがで見てくれれば、俺はして働ける。
、おに謝するから』