"七年目の爪痕" 第1話
線の煙が、を含んだの湿った空気にく沈んでいた。
喪の黒い布が、汗と疲れで肌に張りついている。
埼玉・川越の古い敷。歳で息を引き取った義父、佐伯泰造の法が終わったのは、夜のを回った頃だった。
最のだった親戚のを見送り、扉を閉めたとき、真帆のは鉛のようにかった。
。
脳梗塞で倒れ、半の麻痺とい嚥障害を抱えた義父を、真帆はこの敷でただ、介護し続けてきた。
排泄の介助、擦れの処置、に度の流作り。夜に度、体位変換のために起きる活が千百以続いた。
真帆の指先は度なる消毒液でひび割れ、かつて建築設計事務所で製図ペンを握っていた頃のなめらかさは、どこにも残っていない。
「終わったんだ……」
暗い庭のびを踏みながら、真帆はさく息を吐いた。
寂しさと、体の底からいがってくる得体のれない脱力。これからは、しだけ自分のを取り戻せるのかもしれない。歳。子どもはいない。だが、夫の俊介と、これからの静かな暮らしをやり直せるのだと、のどこかで信じようとしていた。
だが、玄関の引き戸をけた瞬、その淡い予は無惨に打ち砕かれた。
たたきのに、見慣れない巨なビニール袋がつ、無造作に転がっていた。
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の透なゴミ袋。
その隙から、真帆が普段着ている毛玉だらけのカーディガンや、着、何もに買った物のスカートが、無残にはみしている。その脇には、真帆が独代から使っていた古いスーツケースが、鍵を壊されたままいた状態で放りされていた。
「……何、これ」
声が震えた。
がり框のに、夫の俊介がっていた。
元の第方で支次を務める俊介は、の喪をすでに脱ぎ捨て、糊のきいたワイシャツの腕をまくっている。その表には、つい数まで親戚ので見せていた「嘆に暮れる孝息子」の面は微もなかった。
「気が利かないおでも、それを見れば状況くらい呑み込めるだろう」
俊介はたく吐き捨てると、胸ポケットから枚のを取りし、真帆の元へ放り投げた。
はひらりとい、のついた真帆の靴の横に落ちた。
「婚届」
緑の枠線が、玄関の暗い裸球ので、毒々しくっていた。夫の欄にはすでに、几帳面な万の跡で署名と実印が押されている。
「俊介さん、これ……どういうこと?」
「言葉通りのだよ。親父の法はすべて滞りなく終わった。今をもって、おのこのでの役割は終だ」
俊介は階段のすりに寄りかかり、見すような線を真帆に浴びせた。
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「、飯と寝を提供してやったんだ。無職の女を養うにしては、分すぎるほどの切れ代わりに、万やるよ。今夜にてけ」
財布から抜き取られた万円札が枚、のに落ちた婚届のに、ばらばらとねて落とされた。
真帆の喉の奥が引き攣り、言葉がない。
界がぐにゃりと歪む。
「無職……? 私、お義父さんの介護のために、事務所を辞めてくれって頼まれたのよ。あなたが、施設に入れるが惜しいって……仕事を続けたいって泣く私に、座までして……」
「いつの話をしてるんだ」
俊介の唇が、酷な嘲笑の形に歪んだ。
「おが勝に選んだことだろ。だいたい、子ども産めない穀潰しを、佐伯の本にいつまでも置いておけるわけがないだろうが。世体だよ、世体。親父がきてるは介護員として置いておいてやったが、もうその親父もいない。用済みなんだよ」
「よく言ったわ、俊介」
居の襖がき、義母の淑恵が姿を現した。
古希を迎えたはずの義母は、泰造が寝たきりだった、「持病の喘息が悪化するから」と理由をつけて駅の賃貸マンションに引きこもり、度として夫の清拭すら伝わなかった。
その淑恵が、今やが物顔で泰造の遺品である輪島塗の湯呑みをに持ち、茶をすすっている。
「真帆さん、あなたには最初から佐伯の血がわなかったのよ。
品がないというか、貧乏臭いというか。お父様がくなった途端に、財産の分けにでも預かれるとって居座るつもりだったんでしょうけれど、あいにくね。