"身代わりの爪痕" 第14話
髪は乱れ、物のカーディガンを羽織った悦子は、志乃の姿を認めるなり、そのに膝をついて取りすがってきた。
「志乃! あんた、警察に何てこと言ってくれたのよ!」
悦子のからたのは、娘が無事だったことへの堵ではなく、剥きしの怨嗟だった。
「神さんが逮捕されたら、うちの借はどうなるのよ! 『帳消しにした約束は無効だ、百万円今すぐ括で返せ』って、神の親族から連絡が来たのよ! あんたが被害届を取りげれば、まだ何とかなるって弁護士が……!」
「お母さん」
志乃は静かに母の言葉を遮った。 その声があまりにもく、ややかだったため、悦子は呆然とをつぐんだ。
志乃はバッグから、枚の用を取りした。 あらかじめ弁護士のを借りて作成した、親族関係断絶に関するだった。
「私の座に入っていた、独代の貯百万円。それを用と緒に置いていくわ。借の返済にでも充てて」
「に、百万ぽっちじゃりないわよ! 残りの百万はどうするのよ!」
「あんたが自分で作った借でしょ」
志乃はちがり、母を見ろした。 子どもの頃からずっと恐れ、顔を窺い続けてきた母親が、今はただのさく醜いにしか見えなかった。
「お姉ちゃんの代わりに私を差しして、ぬと分かっているに売りばした。
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……私はもう、あんたの娘じゃない。度と私のに現れないで」
「志乃! 親に向かって何てこと言うの! 育ててやった恩を……!」
背で響く母の罵声を、志乃は度も振り返ることなく置きりにした。
警察署のロビーをると、ひとつないれの青空が広がっていた。 玄関の階段ので、姉の里帆が待っていた。
かつての窓で見せていた華美な装飾はすべて脱ぎ捨て、黒いパンツスーツにスニーカーという質素なでちだった。だが、その横顔には、誰の代わりでもない、自分自のでっているの誇りがあった。
「……終わったの?」里帆が尋ねた。
「うん。終わったよ」
「これから、どうするの?」
志乃は自分の元を見つめた。 、あのの夜に玄関に転がっていた、まみれのウェディングパンプス。 の結婚式を演じるために履かされた、あの息苦しい靴は、もうどこにもない。
今、志乃が履いているのは、警察署のくの量販で自分の財布からおをして買った、千円の平底のスニーカーだった。
しくて、飾り気のない靴。けれど、どこへでも歩いていける、自分のための靴だった。
「の見える、誰も私のことをらない町へくよ」
志乃が顔をげると、里帆はふっと、と同じ懐かしい悪戯っぽい笑顔を浮かべた。
「いいわね。落ち着いたら、部の写真を送りなさいよ。
……今度は、私の番号をブロックしないでよね」
「しないよ、お姉ちゃん」
は並んで、駅へと続く坂を歩き始めた。 吹き抜けるが、志乃の髪を優しく揺らした。
奪われたのは戻らない。 の奥に刻まれた傷痕も、完全に消えることはないだろう。
それでも、志乃のは確かに面を踏みしめていた。 を脱ぎ捨てたそので、自分のへと向かって、歩ずつみ始めていた。