"身代わりの爪痕" 第6話
神の妻になるには、特別な席では必ずこれをにつけていてほしい』
志乃はこれまで、それを古い柄の「由緒ある宝」なのだと信じ切っていた。 だが、昼にファミレスで読んだネット記事の奥に、くなった倉科美加さんののSNSアカウントの魚拓が残されていたのを、志乃は見つけていた。
友たちと旅にったの写真。 誕を祝われている写真。 そのどれもで、満面の笑みを浮かべる美加さんの華奢な首には――あのゴールドのブレスレットが、確かにっていた。
代々受け継がれた宝などではなかった。 に浴でたくなった、屈の婚約者の遺品だったのだ。
「志乃、スープが沸騰しているよ」
背から掛けられた声に、志乃はさく鳴をげてび退いた。 にしたお玉が鍋の縁に当たり、甲い属音がキッチンに響き渡る。
「ご、ごめんなさい……!」
「どうしたんだい? 今はずいぶん落ち着きがないね」
拓真はコンロのをめ、志乃の顔を覗き込んできた。 その瞳は、の底のようにを通さない。 志乃は必に唇の震えを抑えながら、「し痛がするだけです」と嘘をついた。
夕は、砂を噛むようなだった。 拓真は何事もなかったかのように会社の業績や週末の予定について話し、志乃はただ曖昧に頷き続けた。
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夜のがづく。 神のルール。志乃の入浴だ。
「さあ、志乃。もうだよ。温かいうちにお呂に入っておいで」
拓真はそう言って、洗面所の扉をけて湯加減を確かめた。 湯器の子音が、まるで刑台へのカウントダウンのようにピピピと鳴り響く。
志乃はパジャマを抱えて洗面所へ入った。 脱所の鏡に映る自分の顔は、青ざめて幽霊のようだった。
浴のドアノブを見る。 あの作業員が言っていた、側から簡単に解錠できる簡易ラッチ。 内側から鍵をかけることは許されていない。
浴槽の湯気のにを沈めながら、志乃は壁のタイルを見つめていた。 、この所で、倉科美加さんはどんないで息絶えたのだろうか。 本当に、ただの急性全だったのか。 もし、このい扉の側に、誰かがっていたとしたら――。
恐ろしさに耐え兼ね、志乃はわずか分で湯からがり、体を拭いて寝へと逃げ戻った。
鏡台のに座り、濡れた髪にブラシを通す。 元には、昼確認したあの宝箱が置かれたままになっていた。 蓋がわずかにいており、のの鎖が妖しくを反射している。
志乃が吸い寄せられるようにそのブレスレットを見つめていた、そのだった。
浴の方から、音がづいてきた。 拓真が湯がりのバスローブを羽織り、濡れた髪をタオルで拭きながら寝に入ってきたのだ。
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体からちる湿った気と共に、拓真が音もなく志乃の背にった。 鏡越しに、の線が交差する。
拓真の線が、鏡台ののブレスレットへと落ちた。
志乃の臓が、鐘のように打ち鳴らされる。 息が止まりそうになった。
だが、拓真は慌てる様子も、表を張らせる様子も切見せなかった。 彼はふっと、どこか懐かしむような、奇妙に優しい笑みを元に浮かべた。
そして、ゆっくりと両を伸ばし、志乃のたい肩を背から抱きしめた。
元に、拓真の湿った吐息がかかる。
「……どうしたの、志乃? 美加もね、そのブレスレットが番のお気に入りだったんだよ」
悪びれるすらなく、拓真はんだ婚約者の名を、そのから滑らかに紡ぎした。
「え……?」
志乃の声は、掠れた空気の音にしかならなかった。 背から抱きしめてくる拓真の腕は、鉄の鎖のようにく、逃げを塞いでいた。
鏡のの拓真は、穏やかに微笑んでいる。 だが、その瞳には何の波ちもなかった。罪悪も、揺も、隠し事が見した焦りすらしない。
「驚いたかい? 母さんから聞いていなかったのかな」
拓真は志乃の髪を優しく撫で、その毛先を指に絡め取った。
「、僕には結婚を誓いったがいた。美加というんだ。けれど彼女は、持病の発作で突然くなってしまった。
僕のの呂でね。僕が帰宅したには、もうたくなっていたよ」