"二十七年目の嘘" 第12話
民センターの階ロビーは、昼がりの柔らかな差しに満たされていた。
きれいに磨かれたリノリウムのに、移式のパーテーションが並べられている。
派な照も、なガラスケースもない。
域の老会や主婦、学たちが撮った写真が、いのパネルに貼られてずらりと並んでいた。
「あ、あったよお母さん」
真由がりにパーテーションのに駆け寄り、招きした。
美智子がづくと、窓際のしい位置に、自分の写真が掛けられていた。
『ただいまの所』
古い造平の玄関。
のついたスニーカー、かかとの潰れたサンダル、さな子供の履き。
夕暮れのがに斜めに差し込み、それぞれの靴が今どこを歩いてきたのかを物語っているような枚。
その横のさな札に、黒いインクではっきりと印字されていた。
『佐伯美智子』
誰かの妻でも、誰かの母親でもない。
にこの世にまれた、佐伯美智子というのの名だった。
「やっぱり、すごくいいよ」
真由が腕を組んで、じっと写真を見つめた。
「お父さんの会社のパネルも派だったけど、こっちのほうが胸に刺さる。なんかね、このに帰ってきたくなるの」
「そう?」
「うん。靴の並び方だけで、どんな族がんでるのか分かる気がするもん」
真由はそう言って、美智子の顔を見て微笑んだ。
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「お母さん、やっぱり見る目あったんだね。の京の会社のたちも、きっとこの目を見て採用を決めたんだよ」
美智子は写真を見つめたまま、胸の奥がじんわりとくなるのをじていた。
誰もが通り過ぎてしまうような、常のわずかな擦り傷や埃。
それを「おしい」とえる自分の目を、自分自が番信じてやれずにいた。
落ちたのだと決めつけ、才能がなかったのだと諦めることで、自分を守っていた。
傷つくことから逃げるために、也の嘘を都よく受け入れていたのは、自分だったのだ。
「真由」
「ん?」
「輔さんとは、あれからどうなったの?」
真由はふっと息を漏らし、し照れくさそうにを掻いた。
「昨ね、夜遅くまで話しったの。輔さん、最初は『無理して働かなくてもいいのに』って困ってたけど、私の気持ちを全部話した。『あなたの仕事を支えたい気持ちは本当だけど、私は私のでっていたい。名古にっても、パートでも派遣でもいいから仕事を探す』って」
「輔さんは何て?」
「『真由がそこまで考えてるなら、緒に探そう』って言ってくれた。向こうのお義母さんにも、輔さんからちゃんと伝えてくれるって。『真由さんは自分の力でキャリアを積んできただから、の用事だけで縛りたくない』って」
真由の瞳には、迷いがなかった。
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に委ねるのではなく、自分で選んだをくの顔だった。
「よかったわね」
「うん。お母さんが止めてくれたからだよ。あのまま流されて仕事を辞めてたら、私、いつか輔さんをんでたとう」
真由は美智子のを取り、ぎゅっと握りしめた。
「お母さん、ありがとう」
「お礼を言うのは私のほうよ。あなたがってくれたから、私も目が覚めたんだから」
は展示をて、駅のカフェで遅い昼をとった。
これからの結婚式の準備のこと、名古での活のこと、居の具のこと。
のない話を何もねた。
夕暮れがづき、駅の改札で真由を見送るとき、真由が振り返って言った。
「お母さん、これからは自分のためにを使ってね」
「そうするわ」
「たまには名古にも遊びに来てよ。美しいひつまぶし、ご馳するから」
「楽しみにしてるわ」
真由が改札を抜けていく。
度ち止まり、きくを振った。
美智子もさくを振り返した。
娘の背が混みに消えていくのを、美智子は最まで見届けていた。
寂しさは議となかった。
子供たちが巣ち、夫を見送り、自分はようやく本当のになったのだという、すがすがしい静けさだけがあった。
に戻ると、すっかり夜の帳がりていた。
玄関のかりをつけると、脱ぎ揃えられた自分のパンプスがだけ、暗いに置かれていた。
かつてはここに、夫のきな革靴や、子供たちのだらけの運靴が溢れていた。