"夫の赴任先にいた「妻」" 第1話
「どちら様でしょうか?」
玄関の扉をけた若い女性は、見らぬ私をにしてし首をかしげた。肩まで伸びた髪をゆるくまとめ、いグレーの部着を着ている。買い物帰りでも来客でもない、そこにんでいるの格好だった。
私は表札をもう度確認してから尋ねた。
「すみません。ここ、野隼の部で違いありませんか?」
「はい、そうですけど」
女性はそう答えると、すぐに警戒を解いたように笑った。
「うちの主のお友達ですか?」
瞬、が理解できなかった。
聞き違えたのだろうかとったが、女性は何の疑いも持たず、私を玄関のへ招き入れようとしている。元には女性物のパンプスが2並び、靴箱のには男物と女物の鍵がつのトレーに置かれていた。
「主……?」
私が聞き返すと、彼女はし照れたように笑った。
「まだ入籍はしていないんですけど、もう緒に暮らしているので。来にはちゃんと夫婦になる予定なんです」
胸の奥が、すっとたくなった。
私と野隼が結婚して、今で2になる。
婚届をいた覚えはない。
まして、夫が別の女性と結婚するという話など、度も聞いていなかった。
「そうですか」
私はバッグの持ちを握り直し、女性の顔を見た。
「では、あなたは隼の婚約者なんですね」
「はい。野穂波といいます」
広告
悪びれる様子もなく名乗った穂波は、奥へ振り返った。「隼、あなたのお友達が来てるよ」と声を張りげたため、私は反射にその言葉を遮った。
「いえ。友達ではありません」
穂波が振り向く。
私は彼女の目を見たまま、ゆっくり言った。
「夫の妻です」
数秒、玄関から音が消えた。
穂波の笑顔が固まり、頬から血の気が引いていく。それでも何かの違いだとったのか、「え?」とさく聞き返した。
「聞こえませんでしたか?」
私はもう度言った。
「野隼の妻です。法律、今も結婚しています」
その瞬だった。
奥のリビングから音が聞こえ、缶ビールをにした隼が姿を現した。休だったらしく、Tシャツにスウェットという格好で、昼から酒をんでいたらしい。
「穂波、誰だった?」
そう言いながら玄関へ来た夫は、私を見た瞬にを止めた。
「……美玲?」
缶を持つが止まった。
「なんで、おがここにいるんだよ」
その言葉で、私は最の疑いまで捨てた。
半以まともに話へなくなった夫を配して、くれた単赴任先まで訪ねてきた妻に向ける顔ではなかった。驚きよりも恐怖が勝っている。
「久しぶりね、隼」
私は笑わなかった。
「聞きたいことがほどあるの。まず、このは誰?」
穂波を見ると、隼の表がみるみる張った。
「会社関係のだよ。今はたまたま遊びに来ていて……」
広告
「緒に暮らしてるって聞いたけど」
「そんなわけないだろ」
「来結婚するとも聞いたわ」
隼は今度こそ言葉を失った。
穂波も黙ってはいなかった。「ちょっと待って。隼、この、本当に奥さんなの?」と詰め寄ると、隼は骨に目をそらした。
「その話はで説するから」
「でって何? あなた、もう夫婦関係は終わってるって言ってたでしょう。婚の話もんでるって」
穂波がそうにした瞬、すべてがつながった。
彼女は隼が既婚者であること自体はっていたのだ。
ただし、自分に都のいい説だけを聞かされていた。
そしておそらく隼は、私にもまた別の嘘をついている。
そう考えた、議と涙はなかった。
なぜなら、このここへ来た点で、私はすでに夫を完全には信じていなかったからだ。
始まりは、およそ1。
義母が倒れた、あのだった。
私は野美玲、31歳。
広告代理で営業企画の仕事をしていた私は、取引先だった印刷会社で1歳の隼とりった。最初に惹かれたのは容姿ではなく、仕事に対する姿勢だった。
担当者から急な修正を頼まれても嫌な顔をせず、納期が厳しい案件では自分から制作現へを運んで調する。輩からも取引先からも頼られており、私には「誠実」という言葉がそのままを着て歩いているようなに見えた。
初めて2で事をしたのは、仕事でりって半ほど経った頃だった。隼はレストランの席に着くなり、「度ゆっくり話してみたいとっていたんです」