"消えた神童、10年後の手紙" 第1話
平成13の、陸のある県に、1万2000ほどのさな町があった。桂町と呼ばれるその町では、稲刈りを終えた田んぼの匂いがに混じる頃になると、商の気の軒先にサッカーの会程が貼りされた。
国沿いの商には、すでにシャッターを閉めたもかった。それでも気や堂、古い料品など、昔からのが細々と営業を続け、々は買い物の途でち話をし、誰のの子が何になったかまでっているような町だった。
町を流れる川の川敷には、桂サッカースポーツ団の練習があった。芝などなく、がればぬかるみ、れたが続けば砂埃がう、ただののグラウンドだった。
子供たちは練習にトンボを引き、凸凹になった面を均した。母親たちは当番できな黄いヤカンに麦茶を入れて運び、父親たちは自用に子供を何も乗せて征へ送った。
その団に、町ではし名のられたがいた。
陸、10歳。
学5だった。
体は同級のでもさい方だったが、りすと速かった。元へボールが来ると、相が2いても3いても簡単には奪われず、細い体で最までり続けた。
自分の子供を褒めたい親はかったが、陸についてはの子の親までが認めていた。
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「あの子は、もうしきくなったら町のでもやれるんやないか」
そんな言葉を聞くと、母のゆみ子は照れたように笑った。
父の剛は、それ以に陸のサッカーを切にしていた。
剛は町のにある部品で、プレス程の班として働いていた。仕事が終われば作業着のまま自転で川敷へ向かい、フェンスのから練習を眺めることもかった。
若い頃、剛自もサッカーをしていた。
19歳のには度ドイツへ渡り、1ほど暮らしたこともあったという。しかし、その頃のことを詳しく話すことはほとんどなかった。
へ帰ると、剛には毎晩決まってすることがあった。
呂からがった、玄関のたたきへ聞を広げ、陸のスパイクを置く。靴底に詰まったを落とし、ブラシをかけ、緩んだ靴紐を結び直した。
敷には、陸自が黒いマジックでいた文字があった。
「陸」
ゆみ子は台所から何度もその姿を見ていた。
「そんな毎せんでもええやろ」
そう言うと、剛は靴から目をさず答えた。
「のままにしとくと傷む」
それだけだった。
平成131013、曜。
区会の準決勝がわれた。
桂団は負けた。
陸は試終の笛が鳴るまでり続けたが、1点差を返すことができなかった。試は悔しそうに唇を噛んでいたものの、では泣かなかった。
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帰り、剛は陸に肉まんを買った。
「次やな」
父がそう言うと、陸は肉まんを両で持ったまま頷いた。
そのの夜、ゆみ子には弁当の夜勤が入っていた。
午9半頃、をるには剛も陸もにいた。
ゆみ子が覚えている最の景は、居でテレビを見ていた陸と、そのしろで黙って聞を読んでいた剛の姿だった。
「ってくるね」
「おう」
剛がく答えた。
陸はテレビを見たままだけをげた。
いつもと変わらない夜だった。
翌朝、1014。
夜勤を終えたゆみ子がへ戻ったのは、まだ町が完全には目を覚ましていないだった。
玄関をけた瞬、彼女は違を覚えた。
静かすぎた。
剛の靴がない。
陸の運靴もなかった。
居にも寝にも誰もいなかった。
最初は、父と息子で朝くかけたのだとった。陸のサッカーの試や練習で、休の朝に2だけでをることは珍しくなかった。
しかし、ゆみ子は玄関でを止めた。
いつも陸のスパイクを置いている聞のが、空になっていた。
夜、剛が入れしていたはずのスパイクが、両方とも消えている。
いバンもなかった。
ゆみ子は計を見た。
午6だった。
が経てば帰る。
そうって待とうとした。
だが胸の奥に浮かんだは、なぜか消えなかった。
午610分。
ゆみ子は自転に乗り、町の駐所へ向かった。
その、彼女はまだらなかった。
夫と息子の姿を同に見た夜が、10にわたるい別れの始まりになることを。