"消えた妻と13本のテープ" 第11話
「私は駐で武夫さんのを見ました」
さらに別の男性が、震える声で続けた。
「裏のくで夫婦が言い争う声を聞きました。でも武夫さんから、庭内の揉め事だと言われて……」
証言は次々にてきた。
には誰も語らなかった、さな真実だった。
つだけなら事件を解決できなかったかもしれない。それでも全員が話していれば、警察は武夫の嘘をもっとく見抜けた。池が捜索され、母はも待たずに帰れた能性があった。
「皆さんは、今になって何を望んでいるんですか」
栞は尋ねた。
「許してほしいんですか」
誰も答えなかった。
美代子が泣きながら首を振った。
「許してもらえるとはっていません。ただ、もう度黙ることだけはしたくなかったの」
栞は鞄からカセットテープを取りした。
川井の部に残されていた本のうち、最から番目の本だった。警察へ提した、返却されたものだった。
会には古いラジカセが用されていた。
栞が再ボタンを押すと、磁気テープの擦れる音が流れた。
しばらくして、川井の嗄れた声が聞こえた。
『千鶴。先は今も、おの名をラジオへ送った。誰かが聞いているかもしれないとったからだ』
会の誰もかなかった。
『本当は、先自が聞かなければならなかった。
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あの晩、おの声を。助けてという声を聞きながら、夫婦の問題だとおうとした。警察へこうとしたのに、翌朝になれば、もう余計なことを言わない理由ばかり考えていた』
川井が息を吸う音がした。
『はきな嘘をつくだけ罪を犯すのではない。っていることをつ言わない。見たものを見なかったことにする。自分よりいが苦しんでいても、面倒を避けるために扉を閉じる。そんなさな沈黙がなって、を消してしまうことがある』
栞は目を閉じた。
『先はおを見捨てた。だから、ぬまで録音を続ける。これが償いになるとはわない。ただ、いつか誰かがこの声を聞き、おが自分から娘を捨てたのではないとってくれることを願っている』
録音はそこで終わった。
テープが回転する音だけが、しばらく会へ流れ続けた。
栞は止ボタンを押した。
「母が最に守ろうとしたのは、私でした」
誰も顔をげられなかった。
「私は、母に捨てられたとっていました。父から、母は男と逃げた、族より自分のを選んだ女だと言われ続けました」
父の葬儀で泣けなかった理由を、栞は今なら理解できた。
のどこかで、幼い頃から父を恐れていたのだ。母がいなくなってから、武夫はしむ夫を演じながら、娘の記憶まで支配した。
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千鶴の写真を捨て、を処分し、母の話をするたびに嫌になった。
そして栞は、き延びるために父の話を信じた。
母を憎む方が、父を疑いながら同じで暮らすよりも全だった。
「皆さんを許せるかどうか、今は分かりません」
栞は正直に言った。
「でも、母がここにいたことだけは、もう誰にも消させません」
空席のへ歩き、写真の横に本のカセットテープを置いた。
その、美代子が古い袋を差しした。
「これは、千鶴さんがあの晩に持っていたものです」
にはさな赤い帳が入っていた。
旅館の従業員が宴会の隅で見つけ、幹事へ渡していた。しかし事件の混乱で、美代子が自宅へ持ち帰ったままになっていたという。
「警察へ渡すべきだったのに、怖くてけられなかった。ごめんなさい」
栞は帳を受け取った。
表の角は擦れ、母が好きだった鈴蘭のシールが貼られていた。
最にかれた付は、1997104。
母が消えただった。
《今夜、武夫に話す。栞を連れてをる。貯はないけれど、松の姉のところへけば何とかなる。栞には転させることになる。それでも、あの子が毎晩、父親の音に怯えるへ置いておくよりいい》
文字はそこで度途切れていた。
次のには、しさな字でこうかれていた。
《栞はきっと私をむだろう。
それでも、いつか分かってくれるが来ると信じたい。私はあの子を捨てるのではない。あの子ときるために逃げるのだ》