"消えた妻と13本のテープ" 第9話
《続いてのリクエストは、島根県におまいの“の旅”さんからです。切な方へ、今も同じ曲を届けたいということです》
懐かしい謡曲が流れた。戻ってきてほしいと繰り返す女性の声は、13の音源とはえないほど鮮だった。
曲が終わり、い雑音が続いた。
やがて川井の々しい声が聞こえた。
《千鶴、これが最になりそうだ》
何度か苦しそうに息を吸う音がした。
《私は、おを守れなかった。違う。守れなかったのではない。守ろうとしなかった》
栞は再ので、両をく握った。
《私は怖かった。武夫にまれることも、警察に疑われることも、教師だった自分の名誉を失うことも怖かった》
《おの娘を守るためだと、自分へ言い聞かせた。だが本当は、自分を守っただけだった》
川井は激しく咳き込み、しばらく声が途切れた。
《あの夜、おが先ならどうしますかと聞いた、私はへ戻りなさいと言った。娘のためにしなさいと》
《あれは違いだった》
《に武夫がいると分かったも、私は黙った。おがへ乗せられるところを見ても、追わなかった》
《翌朝、方が分からないと聞いた。それでも警察へけなかった》
《毎、今こそ話そうとった。だが、が経つほど言えなくなった》
声は震え、録音が途切れそうになった。
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《このテープを誰かが聞くが来るなら、ため池を調べてほしい》
その言葉に、刑事がわずかにをかした。最初の再には雑音へ埋もれ、確に聞き取れなかった部分だった。
川井は、千鶴がため池にいる能性へ気づいていた。
武夫のがへ向かうのを見たこと。翌朝、ため池くのにしいタイヤの跡があったこと。そして数、武夫がでのついたシートを洗っている姿をくから見たこと。
それらも録音ので告されていた。
13、川井は千鶴がため池の底にいるのではないかと疑いながら、通報できなかったのだ。
最に、川井はい声で言った。
《ごめん、千鶴》
《もし娘さんが聞いているなら、あなたのお母さんは、あなたを置いて逃げたのではありません》
《最まで、あなたのことを配していました》
そこで録音は終わった。
カセットが回転する乾いた音だけが、部に残った。
栞はい、顔をげなかった。涙は静かに頬を伝っていたが、声をして泣くことはなかった。
「この言葉があったから、川井先を許せるというわけではありません」
やがて栞は言った。
「でも、母が私を捨てたのではないと残してくれたことだけは、受け取ります」
刑事はうなずいた。
川井の沈黙は、千鶴の命を救えなかっただけではない。武夫が罪を隠すを与え、栞から母親を信じる権利まで奪った。
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どれほど悔しても、13というは戻らない。
それでも、カセットテープに残された声がなければ、千鶴は今も方者のまま、たいの底で忘れられていた能性がある。
川井はきているに真実を話せなかった。
に発見されることを期待し、録音を残した。
それは勇気ではなく、最まで責任を引き受けきれなかったの、遅すぎる告だった。
数か、栞は母親のの指輪を修復にした。黒く変した部分を完全に磨き落とすことはせず、いの跡をし残してもらった。
しく美しく作り直してしまえば、13、母親がどこにいたのかまで消えてしまう気がしたからだ。
指輪が戻ってきた、栞は母親の写真のへ置いた。
父親が引きしの奥へ隠した、入学式の写真だった。
写真ので、千鶴は娘の肩へを置き、控えめに微笑んでいる。
栞は写真てを窓辺へ移した。
もう誰にも隠されない所だった。
13本のカセットテープは、警察の事件記録とともに保管された。ラベルにかれた号はれ、音声にもしずつ劣化がんでいた。
しかし、そのに残された言葉は、1の女性が自分から族を捨てたのではないことを証した。
真実は13遅れた。
犯は裁きを受けるにくなり、っていた男も責任を問われることなくこの世をった。
完全な解決とは呼べない。
それでも千鶴は、「男と逃げた妻」