"2本のさつま芋" 第11話
その机のに座っていると、申請の数字だけでを判断しそうになることがあった。
そんな、正夫は自分のであの夜へ戻った。
暗い台所。
何もない戸棚。
残っていた2本のさつま芋。
幼い弟の声。
「兄ちゃんのは?」
そして14歳の自分がついた、さな嘘。
「俺は腹減ってない」
あの言が、正夫を何度もち止まらせた。
もしあの、空腹をらないままだったら。
もし母がすぐ帰ってきて、事に困ることもなかったら。
正夫はになっても、規則の側にある暮らしを像できなかったかもしれない。
そう考えることがあった。
だからといって、あのの来事に謝することはできなかった。
母を警察へらせたことも、弟たちを空腹にしたことも、決して良いいにはならなかった。
いすたび、胸の奥に鈍い痛みが残った。
ただ、その痛みがあったからこそ、正夫は忘れずにいられた。
自分が正しいとっているほど、しだけち止まること。
相が違っているように見えるほど、そのがなぜそこへ来たのかを見ること。
規則を守ることと、を見捨てないこと。
その2つを、最初から反対側に置かないこと。
正夫は仕事を続けるで、何度もそれを自分へ言い聞かせた。
昭24のあの。
14歳のは、母を警察へ通報した。
母は決まりを破っていた。
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は決まりを守ろうとした。
どちらか方だけを見れば、答えは簡単だった。
しかし、そのには腹を空かせた子どもたちがいた。
その事実が入った瞬、答えは簡単ではなくなった。
正夫は、その複雑さを抱えてきた。
そして、それでよかったのかもしれないとうようになった。
簡単に答えをさないからこそ、の事を考え続けられる。
自分の正しさを疑える。
誰かを裁くに、もう歩だけづいて見ることができる。
母の言葉は、正夫に答えを与えなかった。
その代わり、問いを残した。
目のの決まりは、誰を守るためにあるのか。
その決まりからこぼれ落ちるはいないか。
そして、自分が正しいとったの先で、誰かが腹を空かせてはいないか。
正夫は、その問いを忘れなかった。
何経っても、記憶ののさつま芋は2本のままだった。
さく切り分けられた芋。
弟へ渡した分。
妹へ渡した分。
そして自分には残さなかった分。
あの夜の卓には何もなかった。
けれど、その空っぽの卓で正夫は、学では教わらなかったものを初めてった。
正しさには、相の暮らしを見る目が必だということを。
法律の文字だけでは見えないものがあるということを。
そして、を守るために作られた決まりであっても、それを使うがの痛みを忘れれば、にはたいものになってしまうということを。
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正夫が涯忘れなかったのは、母が警察へ連れてかれたことだけではなかった。
あの、自分が確かに正しいと信じていたことだった。
そして、その正しさに初めて迷いがまれた瞬だった。
その迷いは、やがて正夫にとってさではなくなった。
誰かの事を考えるための、切なになった。
だからになってからも、正夫はすぐに「仕方がない」とは言わなかった。
度だけ、類の向こう側を見る。
別の方法はないか考える。
それでも無理なら、なぜ無理なのかを自分の言葉で説する。
14歳の自分にはできなかったことを、しずつやろうとした。
昭24の。
母が持ち帰った米から始まった来事は、そこで終わらなかった。
それは20も、その先も、正夫のに残り続けた。
母が教えたのは、決まりを破れということではない。
正しさを捨てろということでもない。
ただ、正しさだけでを見ないことだった。
には、それぞれ暮らしがある。
事がある。
腹が減る夜がある。
そのことを忘れないでいること。
正夫にとって、それこそが、あの母から受け取った最もきな教えだった。