"消えた嫁と浅すぎる墓" 第9話
鳴り声を聞くことも、たいでひび割れたを洗い続けることもない。
ようやく、自分のためだけの所で眠っている。
の陽射しが墓のに落ちていた。
そしてその元では、いを越えたさなが、誰に見られるためでもなく静かに咲いていた。
それはまるで、38といういので自由をにすることのできなかったすみ子が、最になってようやく誰にも命令されない所を見つけたことをらせているようだった。
そのの、は自治会の古い倉庫を理している、冊のい帳面を見つけた。
表には「平成5度 共同墓管理記録」とかれていた。
事が始まってから、墓に関する古い資料は何度も確認したつもりだったが、この帳面だけは別の類箱の底に紛れ込んでいたらしい。
は何気なくページをめくった。
墓の修繕。
供代。
共同清掃の程。
誰がいつ墓を訪れたのかという簡単な記録も残っている。
そして19939。
武田松子の葬儀があったのページで、彼のが止まった。
自分の字だった。
――武田墓所。遺族希望により浅めに埋葬。
その。
さな文字で、もうだけ追記されていた。
――静さん、作業終始墓穴のそばをれず。く掘ることをく拒む。
はい、その文字を見つめた。
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当の自分は、それをき残すほど違を覚えていたのだ。
にもかかわらず、何もしなかった。
「俺も同じだな……」
誰もいない倉庫で呟いた。
野だけではない。
に暮らしていたのくが、武田のおかしさを々っていた。
松子の鳴り声を聞いた者がいた。
正雄が賭け事ばかりしていることをる者もいた。
正でもすみ子だけが働かされている姿を見た者もいた。
痩せていく彼女を配した者もいた。
「変そうだね」
そう声をかけたもいた。
けれど、その先へ踏み込んだ者はいなかった。
「よそののことだから」
「嫁姑なんてどこもそんなもの」
「夫婦には夫婦にしか分からない事がある」
そう言って。
皆が、見えていたものからしずつ目を逸らしていた。
すみ子が消えたでさえ、
「あんななら嫁も逃げるだろう」
その程度の話で終わってしまった。
誰もへ探しにかなかった。
誰も、正の吹のを3で登っていったのに、なぜ2しか戻ってこなかったのかを本気で考えなかった。
は帳面を閉じた。
そのの夕方。
彼はすみ子の墓へ向かった。
齢になったのでは、昔のようにを歩くのは難しい。
幸い、すみ子の墓は平に移されていた。
墓にはすでに誰かが供えたいがあった。
もくので買ったを置く。
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「すみ子さん」
呼びかけてから、自分でも何を言えばいいのか分からなくなった。
あの。
共同井戸で静を見た。
真だというのにで袖を洗っていた。
異常に青ざめていた。
赤黒い染みも見えた。
し変だとった。
でも、
『転んでがついた』
そう言われただけで納得したことにしてしまった。
「俺は、見てたんだよな」
は墓を見ながら言った。
「何かがおかしいって」
その声には、消えなかった悔いが滲んでいた。
「でも、見なかったことにした」
の野と同じように、謝罪しても何も戻らないことは分かっている。
それでも言わずにはいられなかった。
「悪かった」
くをげた。
「本当に、悪かった」
そこへ、の女性がづいてきた。
50代くらいだろうか。
にはを持っている。
がを譲ろうとすると、女性はすみ子の墓のでち止まった。
「すみ子さんのおりいですか?」
が尋ねる。
女性はし迷ってから頷いた。
「昔、同じ縫製で働いていたんです」
結婚。
すみ子は町の縫製で働いていたという。
るく、よく笑う女性だった。
昼休みには同僚たちと菓子パンを分けい、料には母親へさな産を買って帰るようなだった。
「結婚してから、何度かをもらいました」
女性が言った。
「最初は『忙しいけど元気です』って」
しかしの内容はしずつ変わった。
――のことが変。
――へ働きにたい。
――自分で自由に使えるおがほしい。
そして最の。
「『いつか自分でさな部を借りて、で暮らしてみたい』っていてあったんです」