"消えた嫁と浅すぎる墓" 第3話
夫婦関係は決して良くなかった。
正雄には酒と賭け事の癖があり、を空けることもかった。
同居していた姑・松子との関係も険悪。
所からは、しばしば松子の鳴り声が聞こえていたという。
「あのの嫁さんは変そうだった」
「いつ見ても働いてたよ」
「正雄は全然庇わなかった」
同じ証言が何度もた。
方で、静についても別の顔が見えてきた。
京で派な活を続け、額の借を抱えていたらしい。
頻繁には帰省しないものの、実のについて所へ聞いていたこともあった。
そしてもうつ。
捜査員が武田跡を調べている際、松子が使っていた古い箪笥の奥から、茶い封筒が見つかった。
は関係の類だった。
武田が所していた裏のを売却するための契約。
名義は松子。
実印も押されている。
ところが、署名の跡は松子本のものではなかった。
「誰がいたんだ?」
野は類を鑑識へ回した。
同に、すみ子がいたや申請も集めて比較する。
結果がるまでにはが必だった。
そのの夕方。
野は再びを訪ねた。
「松子さんの葬儀で、静さんが墓を浅くするよう頼んだんですよね」
「ああ」
「どんな様子でした?」
の顔が曇る。
「頼んだってじじゃなかったな」
「というと?」
「怖かったよ」
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は7をいすように目を伏せた。
「作業員があとし掘ろうとしたら、穴のへび込んだんだ」
『絶対に掘らないで!』
静は両を広げて叫んだ。
顔は真っ青。
額には汗。
真なのに、全が濡れたように震えていた。
「俺たちは母親をくして取り乱してるとった」
が言う。
「でも、今考えれば……」
野は黙って続きを待った。
「しくて止めた顔じゃなかった」
「では?」
「何かを掘り当てられるのを怖がってる顔だった」
部ので、ストーブがさく音をてた。
野は帳を閉じた。
その、机の話が鳴った。
鑑識からだった。
『野さん、の契約の鑑定結果がました』
「どうでした?」
『署名は、かなりい確率で武田すみ子本の跡です』
野が息を止める。
『それと、指紋が2種類あります』
「2種類?」
『つはすみ子さん』
話の向こうで、拍置かれた。
『もうつは――武田静さんです』
野はゆっくり顔をげた。
元の朝、3でへ入った。
戻ってきたのは誰だったのか。
そして、すみ子が密かに作った売却の類を、なぜ静が触っていたのか。
野は受話器を握り直した。
「静の現を洗え。最優先だ」
計の針は、7へ戻る。
19921231。
青森のは容赦がなかった。
武田の古い台所では、すみ子がで正料理を作っていた。の届かない所でを使い続け、ひび割れた指先からは血が滲んでいる。
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それでもを止めなかった。
松子に何を言われるか分からないからだ。
「何だい、この雑煮は」
背から声がした。
松子だった。
鍋の汁をお玉ですくい、むなり顔をしかめる。
「しょっぱいじゃないか」
「さっき、がいとおっしゃったのでししたんですが……」
「私はしって言ったんだよ!」
お玉が乱暴に鍋へ落とされた。
「本当に気が利かない嫁だね!」
すみ子の肩が震える。
結婚して16。
同じことの繰り返しだった。
言い返せば倍になって返ってくる。
夫の正雄へ相談しても、
『母さんもなんだからしろ』
それだけ。
夕方になると、玄関のから男たちの声がした。
「正雄! 駅でみんな待ってるぞ!」
正雄は待っていたように着を羽織った。
すみ子が玄関でくを塞ぐ。
「どこへくんですか?」
「麻雀だよ」
「は元ですよ」
「朝までには帰る」
「もそう言って帰ってこなかったじゃないですか」
正雄の顔が険しくなった。
「男の付きいにすな」
そのまま吹のへていった。
夜10過ぎ。
へ入る最終バスから、の女がりた。
武田静。
34歳。
京で暮らす松子の娘だった。
静は目を避けるようにコートの襟をて、表玄関ではなく裏の納へ回った。
物音を聞きつけた松子がてくる。
「静?」
「声がきい」
娘は指を唇へ当てた。
「すみ子に聞かれたくないの」
松子は娘を納の奥へ連れていった。
古い噌樽の裏。
松子がたいを掘る。